三重大学医学部附属病院乳腺センター   本文へジャンプ
2.薬物治療


乳癌における薬物療法の役割



乳癌の初期治療には、手術、放射線、薬物療法(化学療法や内分泌療法など)があります。
がんの特性に基づいて、一人ひとりの患者さんに最も効果的な方法を組み合わせて行います。

乳癌には、しばらく乳房内にとどまる「再発しにくいもの」と、しこりができはじめた早い段階から血液やリンパ液によって全身に運ばれ、そこでがん細胞が増えて何年か後に再発する「再発しやすいもの」があります。
目に見えないほど小さい細胞が全身に運ばれるため「微小転移」と呼ばれています。
この微小転移が増殖して、数ヶ月から数年後に再発と診断されますので、再発を予防するためには早い時期にこの微小転移を治療しておく必要があります。
具体的な治療としては、血流で運ばれて身体のすみずみまで行きわたる薬物療法が最も効果的と考えられています。

薬物療法は開始時期により、術前薬物療法と術後薬物療法に分けられます。さらに術後薬物療法には、治療内容により術後化学療法と術後内分泌療法があります。


@)術前薬物療法


最近では、術後に行われていた全身療法を手術前に行うことが試みられています。
海外で実施された研究で、手術前に化学療法(アドリアマイシン/シクロホスファミド)を受けた場合と手術後に化学療法を受けた場合で、再発する頻度は両者で差がなかった、という報告がその背景にあります。

手術前に化学療法を実施する利点としては、

@ 早期に全身治療が開始できる
A しこりの大きさの変化を見ることで、薬の効果を直接確認することができる
B しこりが小さくなった場合、手術の範囲が小さくなり乳房温存術ができる可能性が高くなる

などが挙げられます。



A)術後薬物療法



術後化学療法

患者さん一人ひとりについて、再発するかどうかを正確に予測することはできませんが、手術時の検査結果をもとに、再発の可能性をある程度予測できる条件が、最近の研究でいくつかわかってきました。
現在のところ、

@ わきの下のリンパ節転移のある人やその個数が多い人
A ホルモンの感受性(受容体)がない人
B 腫瘍が大きい人
C 腫瘍の悪性度が高い人
D HER2タンパク強陽性の人
E 腫瘍細胞の増殖能が高い人

が再発の危険性が高いことがわかっています。
これらの条件を持った患者さんについては、再発予防のための術後化学療法をうけていただくのが良いとされています。


術後内分泌療法

乳癌の細胞には、女性ホルモン(エストロゲンやプロゲステロン)に反応して増殖する性質(ホルモン感受性)を持っているものと、持っていないものがあります。ホルモン感受性を持っているがん細胞は、細胞表面にホルモンを受け入れる口(ホルモン受容体)を持っており、そこから女性ホルモンを取り入れて増殖します。

したがって、タモキシフェンに代表されるホルモンの取り入れを邪魔する薬によって、がん細胞の増殖を抑えることができます。また閉経前の患者さんでは、タモキシフェンのようなホルモンの取り入れを邪魔する治療とあわせて、できるだけ女性ホルモンの体内での量を減らす目的で、卵巣の働きを抑制する治療も必要になります。

ホルモン療法に対して感受性がある場合には、化学療法と組み合わせて使用すれば、より高い効果が得られると考えられます。

約7割の乳がんの場合は、女性ホルモン(エストロゲンと呼ばれる卵胞ホルモン)によってがん細胞の増殖スピードが影響されます。手術でとった乳がん組織中のホルモン受容体を検査することにより、女性ホルモンに影響されやすい乳がんか、そうでない乳がんかがある程度わかります。女性ホルモンに影響されやすい乳がんを「ホルモン感受性乳がん」、「ホルモン依存性乳がん」と呼びます。


また、女性は通常50歳前後を境に卵巣の働きが衰えることにより、生理が止まり「閉経」を迎えます。

ホルモン感受性乳がんの場合では、タモキシフェンというホルモン剤により女性ホルモンの働きが抑えられ、がんの増殖が抑えられます。閉経前の場合では、卵巣からの女性ホルモンの分泌を抑える黄体ホルモン分泌刺激ホルモン抑制剤を使用します。また、閉経後は脂肪からの女性ホルモンの産生を減らすアロマターゼ阻害剤が使用されます。ホルモン療法の副作用は一般的に極めて軽いのが特徴ですが、タモキシフェンの長期間使用者に子宮がんの発生が高くなるとの報告もあります。


分子標的治療(ハーセプチン治療)

乳癌の細胞にはHER2タンパクと呼ばれるタンパク質を細胞の表面にたくさん持っているものがあります。このHER2タンパクは乳癌の増殖に関与しており、このHER2をねらい撃ちした薬(ハーセプチン)が

開発されました。ハーセプチン治療はHER2タンパクを過剰に持っている乳癌にのみ効果を発揮します。