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疾患の治療

がん治療における精神科の役割

 がん治療における精神科の役割には二つあります。一つはコンサルテーション・リエゾン精神医学です。がん治療中に発生した適応障害、抑うつ状態やせん妄などついて精神科的診断と治療を行うものです。もう一つは緩和医療における精神的サポートです。精神科がコンサルテーション・リエゾンや緩和医療で遭遇する精神科的状態は、がん罹患と治療によるストレスによって起こる精神的反応(抑うつ、不安、不眠など)と、脳と体の状態の悪化によって生じる精神症状(せん妄)が多いと感じています。

 がん治療を行われている方々は全病期を通じて病気に対する不安、焦り、抑うつ気分、不眠、意欲の低下、自責感などが生じることがあります。特に、抑うつ気分や不安は多くの方々に認められる一般的な精神症状であり、精神的なサポート必要とする場合も少なくありません。がん治療を行われている方々の約25%が精神科的サポートを要する抑うつ、不安に苛まれ、さらに精神的健康も損なわれている状況であるにもかかわらず、3%しか精神科的サポートを受けていないのが実情です。私たちは、がんに対する治療に立ち向かうための気力を充実し続けるためにも、抑うつ気分、不安、不眠への適切なサポートが得られる機会がより多くなるように努力しています。具体的には、抑うつ気分、不安、不眠などの治療では必要に応じて抗不安薬、睡眠導入剤、場合によっては抗うつ薬を用いた薬物療法をまず行います。また、個々の面談を通して、情報を整理し事態を正しく理解するための援助を行う場合もあり、これは一般的にカウンセリングと呼ばれています。同時に家族の方々へのサポートも行うこともあります。

 体の病状によっては“せん妄”と呼ばれる状態に陥ることもあります。がん治療の全経過では、約80%の方々が、一度はせん妄状態になると言われています。せん妄とは軽い意識障害の上に認知障害、幻覚・妄想や興奮などの症状を示す状態です。軽い場合は、ぼうっとしてちぐはぐなことを言ったり、時間や場所、人などがわからなくなったりして、一見認知症(痴呆症)のようにも見えます。しかし、重症になると、興奮し暴力的になり、「点滴や尿のカテーテルを自分で引き抜く、ベッドからの転落・徘徊転倒し骨折する」などの治療を続ける上で好ましくない状態となります。私たちは、早期にせん妄を改善するために抗精神病薬による治療を行います(数日間で軽快することも少なくありません)。

 以上のように、がんという大きな病気に対して立ち向かっていくための“こころの元気”を持ち続けることが出来るように、私たちは心がけ、応援しています。がんと言う体の病気からの回復努力はもちろん、病気と治療による心の健康度の低下を最小限に食い止め、治療中の家族を含めたみなさんの生活を大切に出来るように、一緒に進んでいきたいと思っています。