新医薬品等の製造(輸入)承認申請に必要な一般薬理試験のガイドラインについて

(平成三年一月二九日)

(薬新薬第四号)

(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生省薬務局新医薬品課長通知)

新医薬品等の製造(輸入)承認申請に際して添付すべき資料のうち、一般薬理に関する資料を作成するための試験法について、今般、別添のとおり標準的なガイドラインを作成したので、貴管下医薬品製造(輸入)業者に対し、周知徹底方よろしく御指導願いたい。

なお、学問の進歩等を反映した合理的根拠に基づいたものであれば、必ずしもここに示した方法を固守するよう求めるものではないことを念のため申し添える。
一般薬理試験ガイドライン
薬物の薬理作用は、対象とする疾病の治療に関する作用(薬効薬理作用)とそれ以外の作用(一般薬理作用)に分けられる。

一般薬理試験の目指すところは、薬効薬理作用以外の作用について、その種類と程度を全般的に把握するとともに、臨床適用時に発現する可能性がある副作用を 予測し、さらにその対策を講ずる上での重要な情報を得ることにある。また、生体機能に及ぼす影響のうち、毒性試験によっては必ずしも明らかにし難い有害作 用についても考慮する。

なお、認められた一般薬理作用のうち、主なものについてはその作用機序を検討するとともに、臨床試験において重篤な副作用が認められた場合には、一般薬理試験に立ち戻ってその発現機序等を検討することが望ましい。

これらの試験のすべてについて試験方法を規定し、その詳細を示すことは、薬物の示す薬理作用の多様性等からみて、適当でないと考える。したがって、本ガイ ドラインは、新医薬品の研究開発に際して実施すべき一般薬理試験の基本的な考え方と基礎的な試験項目を示したものである。

試験項目は、A 原則としてすべての新医薬品について行うもの、B 前記Aの結果より判断し、必要に応じて行うものに分類した。さらに、理解し易いよう現在一般に実施されている試験方法等を(注)に示した。

試験の実施に際しては、科学の進歩に応じた技術、方法を積極的に取り入れるべきである。さらに、一般薬理試験のあり方は個々の薬物の特性によって異なることが十分考えられるので、化学構造、毒性及び臨床等の知見から判断して必要と思われる試験を追加実施する。
T 試験動物
  1. マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ等各試験に適した動物種を用いる。なお、系統、性別、年齢等を考慮に入れる。

  2. 試験系としては、以下のものがある。

    @丸ごとの動物、A摘出器官及び組織、B血液及び血液成分、C細胞及び細胞下レベル等

  3. 試験動物及び試験系の選択に当たっては、感受性、再現性、繁用性に留意する。

  4. ヒトに対する予測性を考慮し、適切な情報が得られるよう試験動物及び試験系について計画することが望ましい。

U 適用法
  1. 適用経路

    臨床適用経路又はそれに準ずる経路とする。

    さらに、試験の種類によっては薬理作用を検知しうる適切な経路を用いる。例えば、麻酔動物では静脈内適用等、摘出器官では栄養液への直接添加等がある。

    なお、吸収の良くない被験物質の場合、重要な試験項目については、静脈内適用等の適切な経路でも試験を行うことが望ましい。

  2. 適用回数

    丸ごとの動物を用いる試験では、単回適用を原則とするが、反復適用による影響が予想される場合には、適切な回数の適用を行う。

  3. 用量設定

    用量設定に当たっては、以下の点を考慮する。

    1. 用量作用関係を求めうる用量段階を設定する。

    2. 薬効薬理作用等を示す量からみて十分な量を用いる。

    なお、静脈内以外の経路で臨床適用される被験物質については、薬効薬理作用を示す量を適用した時の血中濃度からみて十分な量を用いる。また、選定した用量の妥当性を作用濃度、血中濃度等と関連づけて十分考察しておくことが望ましい。

  4. 対照群

    対照群には、陰性対照(溶媒)群及び陽性対照(標準薬、類似薬)群を適宜設ける。

V 試験項目
A 原則としてすべての被験物質について行う項目で、一般薬理作用の全体像の把握を目指した試験
  • 一般症状及び行動に及ぼす影響

    • 一般症状について観察する。

      詳細な症状観察を行い被験物質の作用を十分把握することに努める(注1)。

  • 中枢神経系に及ぼす影響

    • 自発運動量に及ぼす影響を検討する(注2)。

    • 麻酔作用について検討する(注3)。

      無処置動物について被験物質の作用を検討するとともに、誘発処置との協力及び拮抗作用についても調べる。

    • 痙攣作用について検討する(注4)。

      無処置動物について被験物質の作用を検討するとともに、誘発処置との協力及び拮抗作用についても調べる。

    • 痛覚に及ぼす影響を検討する。(注5)。

    • 体温に及ぼす影響を検討する。

  • 自律神経系及び平滑筋に及ぼす影響

    • 摘出回腸を用いて検討する。

      被験物質単独の作用及びアゴニストとの相互作用を調べる(注6)。

  • 呼吸・循環器系に及ぼす影響

    • 呼吸運動、血圧、血流量、心拍数及び心電図に及ぼす影響を検討する。

      通常は麻酔動物が用いられる。必要に応じ、無麻酔動物についても調べる。

  • 消化器系に及ぼす影響

    • 胃腸管内輸送能に及ぼす影響を検討する(注7)。

      腸管内輸送能について調べるが、必要に応じて胃内容排出能についても検討する。

  • 水及び電解質代謝に及ぼす影響

    • 尿量、尿中ナトリウム・カリウム・塩素イオン濃度を測定する。

  • その他の重要な薬理作用

    • 類似の化学構造又は薬理作用を有する既知薬物の作用から予想される薬理作用で、薬効薬理試験及び一般薬理試験Aの1)〜6)で検討されないもの

B Aの試験結果より判断して、必要に応じて行う試験
  • 中枢神経系に及ぼす影響

    • 自発脳波に及ぼす影響を検討する。

      必要に応じ、得られたデータについて機器を用いて解析を行う。

    • 脊髄反射に及ぼす影響を検討する。

    • 条件回避反応に及ぼす影響を検討する。

    • 協調運動に及ぼす影響を検討する(注8)。

  • 体性神経系に及ぼす影響

    • 神経・筋接合部に及ぼす影響を検討する(注9)。

    • 筋弛緩作用について検討する(注10)。

    • 局所麻酔作用について検討する(注11)。

  • 自律神経系及び平滑筋に及ぼす影響

    • 瞳孔径及び瞬膜収縮に及ぼす影響を検討する。

    • 血管、気管、輸精管、子宮等の摘出器官・組織を用いて検討する。

  • 呼吸・循環器系に及ぼす影響

    • 自律神経作用薬並びに迷走神経刺激及び総頸動脈閉塞等による血圧及び心拍数の変化に対する作用を検討する。

    • 生体位心臓を用いて検討する。

    • 心臓、心房、乳頭筋、血管床等の摘出器官・組織を用いて検討する。

  • 消化器系に及ぼす影響

    • 胃液、唾液、胆汁及び膵液分泌に及ぼす影響を検討する。

    • 摘出胃・腸管を用い、その運動に及ぼす影響を検討する。

    • 生体位胃・腸管を用い、その運動に及ぼす影響を検討する。

    • 胃・十二指腸粘膜に対する作用を検討する。

  • その他の作用

    • 血液凝固系に及ぼす影響を検討する(注12)。

    • 血小板凝集に対する作用を検討する(注13)。

    • 溶血作用について検討する。

    • 腎機能に及ぼす影響を検討する(注14)。

(注)
  • 注1 多次元観察法等が用いられる。

  • 注2 自発運動測定装置、回転かご、open field 法等が用いられる。

  • 注3 誘発処置としては、バルビツール酸誘導体等が用いられる。影響が認められた場合、中枢性か否かを考察することが望ましい。

  • 注4 誘発処置としては、電撃、ペンテトラゾールが用いられる。ときにストリキニーネ、ピクロトキシン、ニコチン等が用いられる。

  • 注5 圧刺激法が用いられる。ときに writhing 法、Randall-Selitto 法、hot plate 法、tail flick 法等が用いられる。

  • 注6 アゴニストとしてヒスタミン、アセチルコリン、塩化バリウム、セロトニン等が用いられる。

  • 注7 マウス又はラットについて炭末等を用いて輸送能が調べられる。

  • 注8 回転棒法等が用いられる。

  • 注9 坐骨神経腓腹筋標本、横隔神経横隔膜標本等が用いられる。

  • 注10 懸垂法、head drop法等が用いられる。

  • 注11 角膜反射、皮膚反射等が調べられている。

  • 注12 全血凝固時間、カルシウムイオン再加凝固時間、プロトロンビン時間等が調べられている。

  • 注13 ADP、コラーゲン、アラキドン酸凝集等が用いられる。

  • 注14 糸球体濾過速度(GFR)、腎血流量(RPF)等が調べられている。