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炎症性腸疾患(IBD)

潰瘍性大腸炎の治療

これまでの取り組み

潰瘍性大腸炎の外科治療は,1940年代以前では多くの場合,永久人工肛門となっていました。1950年代には大腸全摘・回腸直腸吻合術が当時の標準術式として行われていましたが,排便機能は良好であるものの,残存した直腸の再燃もしくは癌化が多くみられ根治性の高い手術が望まれるようになりました。1970年代には,S型,H型回腸嚢など様々な回腸嚢の作成が試みられていましたが,うまく排便できないことが問題となっていました。楠教授が以前赴任していた兵庫医科大学の名誉教授である宇都宮譲二先生は,1980年にJ型回腸嚢の良好な成績を英文誌に報告し,世界中で同じ方法が試みられ,その方法の優秀さが認められました。この手術方法の成績をさらに向上させるため楠教授は,手術腹部と肛門部操作の同時進行アプローチ,分割手術計画の確立,直腸筋筒長の決定,超音波駆動メスによる直腸粘膜切除術の開発などに携わり,現在の標準術式である大腸全摘・直腸粘膜切除・回腸嚢肛門吻合術がほぼ完成されました。当科でもアプローチ方法として腹腔鏡手術が増加しており,とくにより器具挿入口数の少ないreduced port surgeryが標準的になってきています。この方法での主な傷は臍部が中心となるため,実際の長さより痕が目立ちにくくなるのが特徴です。このように少しずつ変化してきている手術方法ですが,これまでの豊富な経験と知識をもとにした基本術式は変わることなく行っております。

当科における初回IAA&IACA症例

手術適応に関するコンサルテーション

潰瘍性大腸炎に対する内科的治療の選択肢が年々複雑化し,手術時期の判断が難しくなってきています。「本当に手術が必要か?」「いつ行うべきか?」「手術前に試しておくべき治療は?」などの相談に応じます。

手術治療方針の選択

手術の適応ありと最終的に判断された場合,標準手術の大腸全摘+回腸嚢肛門吻合術による完治が目的ですが,病状や術前の内科的治療,社会的背景などを考慮して,個々に適した治療方針を立てます。

1.手術回数

吻合部の安静を保つために一時的な回腸人工肛門を造設し,約3か月後に閉鎖術を行う二期分割手術計画が基本です。全身や直腸粘膜の状態によっては,三期分割を勧めることもあります。一期的吻合希望の場合には,慎重な適応の判断とリスクに関する説明を行います。

2.吻合方法

術前に肛門機能評価と長期予後についての説明を行います。直腸の完全粘膜切除を伴う肛門吻合を基本としています。肛門括約筋機能が低下している場合には,直腸粘膜と括約筋を温存した肛門管吻合を実施することもあります。


回腸嚢肛門吻合(直腸(左)が切離され,回腸嚢が肛門に吻合される(右))

3.アプローチ方法

小開腹法と腹腔鏡法を並行して行っています。小開腹法は下腹部7cmの切開が必要ですが,手術時間が短くなります。一方,腹腔鏡法では腸管を取り出すための4cmの切開で済みますが,手術時間が長くなります。それぞれメリットがあり,希望を伺ったうえで,どちらを選択するか判断します。

回腸嚢合併症に対する治療

難治性瘻孔・回腸嚢炎や回腸嚢機能不全などの合併症に対する治療も積極的に行っています。2014年までに,75例の回腸嚢肛門吻合合併症の治療を行っています。回腸嚢合併症は縫合不全,骨盤膿瘍,難治性瘻孔など感染に起因するものが多く,肛門を温存するためには正確な評価が不可欠です。まずCT,MRI,経肛門的超音波検査,瘻孔造影,内視鏡などにより原因,病態の詳細な評価を行い,適切な治療法を決定します。外科的治療が必要な場合シートンドレナージや一時的人工肛門造設を行います。洗浄処置などにより十分な感染制御が得られれば人工肛門閉鎖を行います。これらの処置でも難治性の場合,回腸嚢切除,回腸嚢肛門再吻合を行います。このように,難治性回腸嚢合併症であっても可能な限り肛門および排便機能の温存を図った回腸嚢肛門再吻合などのサルベージ手術を積極的に実施しています。

術後フォローアップ

人工肛門閉鎖までは医師の診察と並行して,WOC(皮膚・排泄ケア)看護認定看護師による人工肛門管理のサポートを行います。当院での外来のほか,関連施設の桑名西医療センターIBD外来(担当:荒木)での診察も提供しています。

潰瘍性大腸炎に対する診断・治療URL

難病情報センターUC 一般者向け http://www.nanbyou.or.jp/entry/62

クローン病の治療

これまでの取り組み

クローン病は全消化管に炎症をもたらし,再発を繰り返す疾患です。繰り返す手術による広範囲の腸管切除は短腸症候群の危険性を高めるため,再発率の高さは外科治療における大きな問題点となっています。楠教授は兵庫医科大学就任中の1994年に,自動吻合器を用いた機能的端端吻合(FEEA)を一期的に行うことで,合併症発生率の増加なく手術時間を短縮できることを報告しました。1997年には楠教授らのグループにより,手縫い吻合と自動吻合器を用いた機能的端端吻合についての無作為比較試験の結果が世界で初めて英文雑誌に報告されました。FEEAにより再発率が低下することが示され,現在でも当科でのクローン病における腸管吻合の基本術式となっています。また,最近では手術方法とともに,術後維持療法に対しても積極的なアプローチを実施しています。

手術適応

クローン病の治療の目的は病気をコントロールし,生活の質(QOL)を高めることです。発症初期の内科的治療は,栄養状態を維持しつつ再燃・再発を予防することが目標となります。しかしながら,時間経過とともに狭窄もしくは瘻孔をもつ症例の割合が増加します。つまり徐々に病気が進行し形成された狭窄や瘻孔に対しては,内科的治療の効果は限定的で,病変が複雑化する前に手術を行うことが重要です。外来で内科的治療との関係を含めた手術適応についての判断と相談を行います。

病変部評価

これまでの検査では不十分であると考えられた場合には,カプセル内視鏡,ダブルバルーン小腸内視鏡,MRエンテログラフィーなどの最新の装置による病変部の追加評価を行います。また,肛門病変に対してはMRIや直腸超音波,肛門内圧測定,あるいは麻酔下での検索によって,障害程度と病変範囲の十分な把握を行います。

手術方法の選択

クローン病の手術方法は個々の状態によって求められる術式が様々であるため,術前の評価に基づいて適切な手術計画を立てます。これには切除範囲や吻合箇所,吻合方法,あるいは人工肛門造設の適応の有無などが含まれます。また,肛門病変に対しては,可能な限り機能温存手術を選択します。

手術アプローチ

開腹手術のみならず,整容性に優れ,術後疼痛の軽減が可能とされる腹腔鏡手術も行っています。最近,更なる整容性の向上のため,手術器具の腹腔内への挿入箇所を1カ所とした単孔式腹腔鏡手術も可能な限り実施しています。

術後治療

これまでの内科的治療だけでは,術後の再発や再手術が抑制できないことが多く,再発のリスクが大きいと考えられる場合(若年発症,多発病変,再手術例,直腸病変など)には,抗TNF-α抗体製剤による維持療法も行っています。 これまでにわれわれは当科のクローン病術後患者100人を抗TNF-α製剤投与群(50人)と,非投与群(50人)を対象として,5年間に手術を必要としなかった割合を比較した結果を明らかにしています。抗TNF-α製剤非投与群では54%の患者が手術を要しなかった一方,抗TNF-α製剤投与群では92%が手術を必要としませんでした。もちろんすべての方に術後抗TNF-α製剤投与が必要なわけではありません。状態に応じて適切な治療を行うことでQOLを維持できるよう努めています。

クローン病一般知識 URL

難病情報センタークローン病 一般者向 http://www.nanbyou.or.jp/entry/219


クローン病でみられる小腸狭窄(MRエンテログラフィー)


ダブルバルーン小腸内視鏡(左:内視鏡,右:挿入時のレントゲン写真)


クローン病の縦走潰瘍(経肛門小腸内視鏡)


カプセル内視鏡