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〒514-8507
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下部消化管

はじめに

当教室の下部消化管グループは主に小腸・大腸の悪性腫瘍の診療にあたっています。その中で最も診療にあたることが多い疾患は大腸癌です。大腸癌は近年増加傾向にあり,日本の癌による死因臓器別分類でも男女ともに上位を占めています。一方日本における大腸癌治療はこの20年で大きく変遷してきました。特に,欧米を中心に進歩してきた新規薬剤がわが国でも承認され,着実な生存期間の延長を認めるようになってきました。同時に大腸癌に対する化学療法(抗癌剤治療)は多様化し,日本の大腸癌治療のオピニオンリーダーである「大腸癌研究会」からは大腸癌の治療の標準化,均てん化を目指し,標準治療の指針として「大腸癌治療ガイドライン」が発刊されています。また,2006年には当教室の楠教授が委員長となって,全国の大腸癌患者さんや家族にむけて「大腸癌治療ガイドラインの解説」が発刊されました。更に2014年には,医師向け,患者向けガイドラインとも大幅改訂が行われ,私どもも改訂作業に加わっております。現在,大腸癌化学療法が著しく進歩し,ようやく日本でも欧米と同等の薬剤を臨床で使用できるようになってきましたが,その中心となっている薬剤は5-FUであることにかわりありません。いまでは標準治療となっているFOLFOX, FOLFIRIのリザーバーポートによる外来化学療法も,当教室では楠教授が開発したPMC療法(Pharmacokinetic modulating chemotherapy:薬物動態修飾化学療法)で早くから導入し,多くの患者さんのニーズに応えてきました。PMC療法は5-FUの薬物動態に着目し,抗腫瘍効果を増強させることを目的にしたプロトコールで,2005年のオキサリプラチン承認以前から当教室では5-FUの作用メカニズム解明と臨床応用に積極的に取り組み,高い治療成績を得てきました。現在もなお新規の分子標的薬など含め,抗癌剤の薬物動態を分子生物学的に解明すべく研究を続けています。さらに分子標的薬などの新薬とのコンビネーションも含め,最適な治療スケジュールを開発し,今後も患者さんのさらなる生存率向上のために努めて参りたいと思います。このように下部消化管グループでは,標準治療の普及に貢献するとともに,大学病院の使命として更なる治療成績改善を目指し,日々臨床・研究に励んでいます。

当科の特色

直腸癌に対する術前化学放射線療法と肛門温存手術

直腸は解剖学的に周囲を様々な臓器(膀胱,尿管,精嚢,前立腺,子宮,卵巣,膣),神経,血管などに取り囲まれており,排便をコントロールする重要な器官です。このため直腸癌の治療においては,根治性を損なわず,かつ機能を温存する,という相反する問題が生じます。かつては癌が肛門のすぐ近くにある場合には,排便に重要な肛門括約筋を手術で切除していたため,永久人工肛門となることが多く見られました。そのため,欧米を中心とした専門施設では,直腸癌の治療は手術のみならず,化学療法と放射線療法を用いて根治性を高め,自然肛門や骨盤内臓器の機能を温存する様々な試みが行われてきました。当教室では2000年以降,局所再発率の低下と機能温存の両立を目指し,手術手技と集学的治療の両面からアプローチし,診療にあたっています。

直腸癌に対する手術~肛門括約筋温存手術~

当教室ではHeald氏(英国)により開発された全直腸間膜切除(Total mesorectal excision TME)をいち早く導入し,骨盤内再発は飛躍的に減少しました。いまではTMEはわが国でも標準治療となっています。また,以前であれば永久人工肛門となる手術が行われたような,肛門に非常に近い癌であっても,集学的治療と手術を組み合わせることで自然肛門を温存することができる例が増えています。特に当教室では経肛門腹式直腸切除術に加え,症例に応じて内肛門括約筋を切除する手術も取り入れています。また排便機能温存のため,便をためる機能のあるJ型結腸嚢という袋をつくり,肛門管,または肛門に吻合する工夫を行い,良好な成績を得ています。【図1】

直腸癌に対する術前化学放射線療法

進行直腸癌に特有の課題として,術後の局所再発があげられます。上記のTMEの普及で局所再発率は低下しましたが,いまだ局所再発のコントロールは重要な課題となっています。その手段として欧米を中心に標準的に行われているのが化学放射線療法です。1990年のNIH(National Institutes of Health:アメリカ国立衛生研究所)の提言以降,局所進行直腸癌に対する欧米での標準治療は化学放射線療法と手術療法の併用となっており,数多くの臨床試験が行われてきました。一方日本では,側方リンパ節郭清を含めた独自の手術技術の歴史があり,手術単独の治療成績がよいことから,標準治療として定着していないのが現状です。

当教室では古くから直腸癌集学的治療の最適化に取り組んできました。1980年代,教室の楠教授を中心とするグループにより,本邦でいち早く術前放射線療法を導入致しました。当初直腸内腔からの照射(術前内腔照射)を行い,手術とのコンビネーションで予後改善を試みましたが,最終的に生存率には寄与しえませんでした(J Surg Oncol 1997)。このため1996年以降,欧州で開発された高線量短期間照射に,独自開発したPMC療法,改良TME手術を併用することで148例の直腸癌に対し5年局所再発率1.5%,生存率86%と良好な結果を示すことができました(Surgery Today 2008)。また照射方法による腫瘍縮小効果の解析から最近では腫瘍深達度に合わせ2種類の放射線照射スケジュールを使い分けるとともに併用化学療法も変遷しています。これら戦略により,治療成績は更に向上していますが,依然,遠隔転移再発が予後規定因子となっています。そこで私どもは,化学放射線療法後の遠隔転移誘導メカニズム解明を目的に,治療前後の腫瘍,血液サンプルを用いた研究に力を入れて参りました。これまでに,放射線照射が腫瘍及び末梢血中VEGF発現に及ぼす影響を報告し(Oncol Rep 2007),更に治療前の生検サンプルにおける放射線治療関連遺伝子(VEGF,EGFR,HIF-1) 発現と抗腫瘍効果及び予後との関連を報告しました(Clin Oncol 2010)。これら結果をもとに血管新生阻害剤を組み込む新たな術前化学放射線療法も開発し(Mol Clin Oncol 2013),現在では局所進行の著しい直腸癌に対する集学的治療の一環として使用しています。また別のアプローチとして癌幹細胞に関与する転写因子と化学放射線療法後の遠隔転移再発の関連を解析するとともに(Oncol Rep 2009,Ann Surg Oncol 2009),遠隔転移再発誘導のメカニズムの一つとして提唱されているEMTに着目し,放射線照射との関連なども探っています(Ann Surg Oncol 2010,Int J Ocol 2012,Exp Ther Med 2012)。

このように,これまでの豊富な経験とトランスレーショナルリサーチにより,直腸癌集学的治療におけるテーラーメイド化を目指します。臨床および基礎研究の両面からアプローチこそが,真の患者さん貢献につながると考えております。

大腸癌に対する集学的治療

大腸癌が発見されたとき,すでに他の臓器に転移している状態をステージⅣといいます。ステージⅣの患者さんを助けるためには手術だけでは不十分で,化学療法や放射線療法を適切なタイミングで組み合わせる治療を行うことにより,効果的な治療効果を得ることができます。これを集学的治療といいます。当教室ではステージⅣの患者さんにも積極的な集学的治療を行い,良好な成績を得てきました。切除不能大腸癌や,他臓器に転移を認める大腸癌,根治術後の再発大腸癌に対しても化学療法や放射線療法を行った結果,病変が切除可能となる場合もあります。また,私どもの施設では放射線科と協力し,肝転移,肺転移,局所再発に対し,局所療法としてラジオ波焼灼術(RFA)を取り入れております。

大腸癌ステージIVは癌の全身病とも言えますが,進歩した全身化学療法を有効に用いることで,癌の局所治療(転移巣切除,RFA,放射線療法など)がより有効となり,大きく予後を改善させることがわかってきました。私どもは,初回治癒切除不能大腸癌に対し,アクティブな全身化学療法で,癌の状態を全身から局所へとコンバートさせ治癒をめざした切除・RFAを行う集学的治療コンセプトをDe-escalation chemotherapyとして,いち早く提唱してきました(J Gastroenterol 2006)。その結果として208例のステージIV大腸癌においてコンバートした71例の生存期間中央値は,46ヶ月と標準治療を大きく超える成績を報告しています(Oncol Lett 2012)。また,当教室では,全身化学療法の感受性が低く,コンバートも困難で予後不良とされる腹膜播種再発に対し,2014年から臨床研究として,播種切除+腹腔内温熱化学療法(別項参照)を導入しており,転移部位別にテーラーメイド化した集学的治療を推し進めています。

それぞれの患者さんの状況に合わせ,化学療法,放射線療法,手術,RFAなどの異なるモダリティを適切なタイミングと方法で行うこと(治療のテーラーメイド化)をコンセプトに今後もさらなる予後改善に貢献したいと考えています。【図3】

大腸癌に対する腹腔鏡手術

当教室では大腸癌に対する腹腔鏡手術にも日本内視鏡外科学会技術認定を取得した医師を含めた専門チームで取り組んでいます。 腹腔鏡手術に関しては,腹腔鏡下手術のページをご覧ください。