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上部消化管

食道癌

食道癌の治療には,主に手術治療・放射線治療・抗癌剤治療があり,それぞれを組み合わせた集学的な治療が必要となります。食道癌に関する診断・治療については,がん診療ガイドラインとして公開されています(http://jsco-cpg.jp/guideline/09.html)。我々は,消化器内科・腫瘍内科・放射線科・耳鼻咽喉頭頸部外科など他科合同のカンファレンスを定期的に行い,三重大学付属病院を受診された患者さん一人一人に最適な治療法を提供できるよう努力しております。

食道は気管・気管支,大血管,肺や心臓など重要な臓器に囲まれていることもあり,食道癌手術は専門性と難易度が高い手術となります。手術は,食道外科専門医,食道科認定医,内視鏡外科技術認定医を中心に取り組んでおり,2008年からは鏡視下手術を導入しました。鏡視下手術は,従来の胸を大きくあける手術と比較して傷が小さく(図1)(肋骨を切離する必要がありません),術後の痛みが軽減できることや,術中の出血量を減少させることができます。開胸手術では平均出血量は770mlでしたが,鏡視下手術に移行後は,平均338mlに減少しました。


(図1)鏡視下手術は1㎝程度の傷を5カ所あけて行います。

また,食道は,首から胸を通ってお腹まで通過している消化管であるため,手術では首,胸,お腹を切開する必要があります。鏡視下手術導入時は,胸のみを鏡視下で行っておりました。腹部の鏡視下手術は,主に胃癌に対して350例(2014年12月現在)を行っており,この経験を生かして食道癌でも2012年から腹部の操作にも鏡視下手術を導入しました。
食道癌の手術は大きな手術となりますので,様々な術中術後の問題が生じる可能性があります。術中術後管理が発達した現在においてもこれら合併症を100%防ぐことはできません。主な合併症には,手術部位の出血や縫合不全,肺炎や反回神経(声帯を動かす神経です)麻痺などがあります。またそれらの合併症がおこらない場合でも,手術で首を切開するため,特に手術後早期は飲み込みがうまくできないことが多くあります。当院では耳鼻科咽喉頭頸部外科医・口腔外科医・理学療法士・癌専門看護師・栄養士を含めた専門チームで手術前から退院まで肺炎予防や術後の嚥下訓練(飲み込みの訓練),栄養改善など患者さんの診療にあたっています。
食道癌患者数は,2010年の鏡視下手術を導入以来増加し,現在まで70例の鏡視下手術を経験しております。(図2)2014年は食道切除22例,化学放射線療法や化学療法は約20例となりました。
私たちの教室の食道癌の治療成績については食道癌学会の症例登録事業に参加しており,さらなる治療成績向上を目指して取り組んでおります。


(図2)食道癌手術数の推移

食道良性疾患(食道アカラシア・胃食道逆流症)

当科では食道癌以外にも食道の病気に対する手術治療を行っております。
食道アカラシアは,原因不明の食道の機能異常で,食道の下部が狭くなることにより,食物が入らない,胸が痛む,嘔吐するなどの症状が起きてしまう病気です。食道アカラシアに対する手術は,食道下部の筋肉を一部切って狭くなった部分を広げると共に,胃の一部を食道に巻きつけることによって胃内容物の食道への逆流防止機構を付け加える手術を行います。

胃食道逆流症は,胃酸を中心とする胃の内容物が食道や口の中まで逆流して,胸やけや胸や胃が痛むなどの症状がでます。
基本的には薬物療法が治療の中心となりますが,薬物療法が有効でない方に対しては手術治療を行います。胃食道逆流症に対する手術は,胃の一部分を食道に巻きつけることによって胃の内容物の逆流を防止します。
当院ではこれらの食道疾患に対しても2009年から腹腔鏡下手術を導入しており,現在では臍の部分の傷口だけで手術をする単孔式手術も取り入れています。(図3)
当院での食道手術はすべて,食道外科専門医のチームが担当いたします。


(図3)単孔式手術の術後創

胃癌

胃癌の治療には,大きくわけて外科的治療(内視鏡治療または外科的手術)と内科的治療(抗癌剤治療)があり,癌の進行度により胃癌治療ガイドラインに準じて治療方針の決定を行っています(胃癌治療ガイドラインの解説一般用2版カラー 胃癌学会http://www.jgca.jp/guideline.html)。

手術での根治が期待できる患者さんには可能な限り早期に手術(別項参照)を施行しています。また,我々は2000年から腹腔鏡補助下手術(腫瘍の切除までをすべて腹壁の4か所の1cm程の小さい傷のみで施行,再建などは3.5~4cm程の傷から行う)を導入し,現在まで約350例を経験しております(別図1)。


(別図1)胃切除症例数の推移

腹腔鏡手術の技術は年々進歩し,出血量は少なく(腹腔鏡手術 / 開腹術:121g / 367g),合併症発症率は低率(8.1% / 16.6%)で,術後在院日数が短縮(12.1日 / 16.9日)されており,従来からの開腹手術と比べても癌の根治性を損なわずに患者さんの身体への負担を最小限に抑え,安全な手術を提供しております。2008年以降は,手術技術の向上に伴い,完全鏡視下手術(腫瘍の切除から再建までをすべて1cm程の小さい傷から施行する)も始め,さらなる低侵襲化に取り組んでおります。
また,早期胃癌に対するさらなる縮小手術(胃をできるだけ温存する手術)をめざし,センチネルリンパ節検索(別図2)を用いた手術などの多施設共同臨床試験にも参加しております。すなわち,早期胃癌に対して,今後は胃の切除範囲をより小さくして患者さんの術後の生活の質をあげることも計画中です。


(別図2)センチネルリンパ節検索

手術のみでの根治が難しいとされる進行胃癌に対しては,手術治療と抗癌剤治療を併用して施行します。現在の本邦での根治不能胃癌に対する標準抗癌剤治療でも中央生存期間は13カ月と満足のいくものではありません。我々は2000年以降,抗癌剤加療後にタイミングを見計らって外科的手術を組み合わせる治療(腫瘍細胞縮小手術)を用いており,中央生存期間は22.6か月と良好な成績を残しております(別図3,4)。2014年より,他の臓器への浸潤のため手術により取り切れない進行癌や手術後に腹膜再発を起こしてきた再発癌に対しては術中温熱化学療法(HIPEC)を臨床試験として行っています(別図3,4)。


(別図3)根治不能胃癌に対する治療戦略


(別図4)根治不能胃癌における腫瘍細胞縮小手術の成績

患者さんの症状や癌の進行度に応じて様々な治療を組み合わせ,患者さん一人一人に最適な治療法を選択し,一人でも多くの患者さんが治療により長く元気に過ごせるように,最大限の取り組みを行っております。当院では,胃切除術後の患者さんの手術の不安や食生活の不安をできるだけ最小限にして退院して頂くため,理学療法士・癌専門看護師・栄養士・癌専門薬剤師を含めた専門チームで協力して患者さんの診療にあたっています。

胃間葉系腫瘍(胃GIST)

良性から悪性まで様々な形態を示す疾患です。治療の原則は外科的切除(胃部分切除)ですが,術前または術後化学療法などの併用もGIST診療ガイドライン(GIST診療ガイドライン)に準じて行っています。できるだけ切除範囲を小さくし,術後の胃の変形を最小限に抑えることで胃切除後の後遺症を減少させることができます。我々は,2000年以降腹腔鏡手術を導入しており,病気の根治性は勿論のこと,胃の切除範囲縮小・患者さんの体の負担減少なども重視した治療の提供に努めております。