<肝胆膵疾患解説>

<肝臓外科> <胆道外科> <膵臓外科> 

肝移植について

三重大学医学部附属病院臓器移植センターへの問い合わせ

レシピエント移植コーディネーター: 浦和愛子

 電話:059-231-5812 FAX:059-231-5541

  携帯:090-2340-3257  ( mie-u.ishoku.rco@docomo.ne.jp )

  パソコン:ishoku-rco@clin.medic.mie-u.ac.jp

三重大学医学部附属病院臓器移植センターはこちら


肝移植に関する問い合わせ

    水野修吾(実務担当):mizunos@clin.medic.mie-u.ac.jp

    伊佐地秀司(責任者):isaji-s@clin.medic.mie-u.ac.jp

関連ウェブサイト:日本臓器移植ネットワーク日本移植学会日本肝移植研究会  日本肝癌研究会


<目次> I.肝移植医療の現状,II. 生体肝移植の基礎,III. 生体肝移植の臨床と当科の成績,IV. 参考資料:劇症肝炎の診断基準と移植適応基準, 


I. 肝移植医療の現状                          

 肝臓移植医療には死体(脳死)肝移植と生体部分肝移植があります.わが国では1997年10月から脳死臓器が可能になりましたが,10年間で62例の臓器提供が行われたにすぎません.このうち肝臓移植は55例で臓器摘出の承諾が得られましたが,実際に移植が可能であったのは40件でした.脳死肝移植医療が進まないわが国では,生体ドナーによる生体部分肝移植(以下生体移植)が主流となっています.

 2010年7月17日から、15歳未満の子どもを含め家族の同意だけで脳死からの臓器提供を可能にする改正臓器移植法がに施行されました。この法改正により、2010年8月から2015年12月(約5年間)までの脳死下臓器提供は273例と法改正前に比べて明らかに増加しました。しかし、2017年5月31日現在の肝臓移植希望登録者が319例であることを考慮しますと、まだまだ脳死下肝臓移植を受けられる機会は少ないことが分かります。

 肝移植の現状を臓器移植先進国である米国(2015年)と日本(2015年)で比較したのが下図です.米国では年間7127例に肝移植が施行れ,脳死移植が95%を占め,生体移植は5%にすぎません.日本では年間約448例で,うち脳死移植は57例(13%)と極めて少なく,生体移植が391例(87%)を占めています.

 肝臓は極めて多彩な機能を有する臓器で,末期肝不全になった患者さんを救う方法は今のところ肝移植しかありません.わが国では1989年より、血縁者、家族などが自分の肝臓の一部を提供する生体部分肝移植が開始され,脳死肝移植が開始された後もその数が少ないため、生体部分肝移植の症例数は年々増加し,2015年12月までに8066例に達しました.うち脳死肝移植は321例にすぎません.


 しかし、年次別の肝移植数は2005年の570をピークに減少し、最近は420例あまりです(上図).脳死肝移植は2010年の法改正後には年間45例前後と法改正前の10例未満に比べて増加しているが,諸外国に比べると極めて少ないです(下図).


II. 生体肝移植の基礎

 生体部分肝移植が可能なのは,肝臓は切除しても再生する唯一の臓器であるからです.一般的に正常な肝臓であれば,肝臓全重量の70%を切除しても,残りの30%の肝臓で肝再生が正常におこり,ほぼ1年でほぼもとの肝重量まで再生するといわれています.但し,切除量がこれ以上になると肝再生が正常に起こらず,肝不全に陥り,場合によっては死亡してしまいす.生体肝移植ではドナーの安全性が最優先されますので,30%以上の肝臓が残るようにします.

 一方,肝臓を移植される患者さん(レシピエント)としては,少しでも大きな肝臓を移植された方が,移植された臓器の再生が良好に起こり,移植成績(生存率)は良くなります.レシピエントの体重に対する移植肝重量(グラフト肝重量)の比率をGRWR:(グラフト重量/レシピエント体重)x100%といいますが,GRWR>0.8であれば移植成績は良好といわれます.例えば体重が50Kgのレシピエントであれば,400g以上の肝臓が必要ということになります.

 成人の肝重量は1000~1500gですが,肝臓の肝血流と胆道系の解剖を図に示します.

 

 肝臓に流入する血流は,肝動脈(酸素をたくさん含んだ動脈血)と門脈(小腸から吸収された様々な栄養素を含んだ静脈血)の2つ(これを二重血行支配といいます)からなり,これが肝臓内の毛細血管(肝類洞)に分布したのち,肝静脈(右,中,左肝静脈)となって下大静脈に注ぎ,右心房へと繋がります.肝臓は蛋白質,糖質,脂質の合成・貯蔵などの大切な機能の他,胆汁酸を合成し胆汁として胆管内に分泌し,十二指腸へと排出しています.この胆汁が流れる臓器を胆道系(肝内胆管,肝外胆管,胆嚢)とよびます.

 肝臓は外科解剖学的には,大きく4つの区域に分けることができます. 


 外側区域,内側区域,前区域,後区域の4区域です.前区域と後区域をあわせて肝右葉,外側区域と内側区域をあわせて肝左葉と呼びます.肝右葉が約60%,左葉が約40%を占めます.レシピエントが小児の場合,ドナー(両親のいずれか等)の外側区域をグラフト肝(移植肝臓)として用います.レシピエントが成人では,ドナー(成人で,レシピエントの兄妹,妻,子供など)の左葉,または右葉をグラフト肝として用います.

 下図に生体肝移植の手術手技(レシピエント手術)を示します.右図は右葉グラフトを用いた場合で,全肝を摘出したのち,右葉グラフトをput-inし,肝静脈吻合,門脈吻合,動脈吻合の順で行い,最後に胆道再建を胆管・胆管吻合で行い移植が完了します.左図は小児の外側区域ブラフを用いた場合で,胆道再建は胆管空腸吻合で行います.


 生体肝移植が可能なのは,安全な肝切除術と肝再生があるからです.何よりも大切なのは,ドナー肝切除が100%安全に施行できることです.さらに肝切除を受けたドナーの肝臓(残存肝)が良好に再生することと,レシピエントに移植された肝臓も良好に再生することが必要です.下図は当科で施行した生体移植患者さん(右葉グラフトを用いた移植)の術後肝再生を検討したものです.ドナー年齢により50歳未満と50歳以上に比較しています.術後定期的にCTで肝臓の体積を測定し,肝再生(体積)の変化をみたものです.50歳未満では,ドナーの残存肝体積は術直後37%ですが,7日目で61%に増大し,6カ月目では77%,12カ月目では103%と手術前と同じになっています.50歳以上でもほぼ同様の変化を示しています.


III. 生体肝移植の臨床と当科の成績

 生体肝移植医療の利点は,末期肝不全になった患者さんを救命できる唯一の方法であり,かつ救命できた患者さんのQOL(生活の質)がよいということです.しかし,欠点は,術後死亡率(手術をして数ヶ月以内に死亡する割合)が約15〜20%と高いことと,ドナー手術の危険性があることです.

 生体肝移植の適応疾患は,劇症肝炎,先天性肝胆道疾患(胆道閉鎖症),先天性代謝疾患,バッド・キアリ症候群,原発性胆汁性胆管炎(PBC),硬化性胆管炎(PSC),肝硬変(ウイルス性, 非アルコール性,アルコール性),肝細胞癌などです.肝移植の適応で他の臓器と大きく異なる特徴は,癌患者さんが対象となり得ることです.適応となる癌は肝細胞癌のことで,癌が1個(単発)で大きさが5cm以下の場合と3個以内で大きさが3cm以下(これをミラノ基準といいます)の場合は,保険適応に指定されています.なお下に示す疾患は,基本的に保険適応です.生体ドナーの条件(日本移植学会基準による)は,6親等以内の血族,3親等以内の姻族で


 三重大学では,2002年3月~2017年8月までに151例の生体肝移植(成人124例、小児27例)と3例の脳死肝移植(成人)を行っています。対象疾患は、小児の44%は胆道閉鎖症であり、成人は肝細胞癌37%、非代償性肝硬変32%、胆汁うっ滞性疾患16%、急性肝不全12%の順です。 

2017年8月の現在の当科の治療成績は、全症151例の1年生存率は82.0%で、5年生存率は68.9%です。これを18歳未満の小児27例と18歳以上の成人127例でわけますと、小児例は5年生存率89.4%と非常に良好で、成人例では1年生存率79.3%、3年生存率68.7%、5年生存率65.3%になります。


 日本肝移植研究会では,1992年より肝移植症例の登録が開始され,1998年,2000年,そして2002年以降は毎年集計結果が誌上報告されています.2015年末 までの肝移植症例の集計が報告されています.年齢別の生存率を下図に示します.脳死移植(DDLT)では18歳未満と18歳以上とで生存率に差はありません.これに対して,生体肝移植(LDLT)では,18歳以上では生存率が有意に不良となります.これは,生体肝移植で成人間移植となり,移植された肝臓の大きさ(GRWR: graft recipient weight ratio, 肝臓グラフト重量対レシピエント体重比)が小さいためです.



IV. 参考資料

劇症肝炎の診断基準と肝移植適応基準

劇症肝炎の診断基準 (1981,犬山シンポジウム)

 劇症肝炎とは、肝炎のうち症状発現後8週以内に高度の肝機能障害にもとづいて肝性昏睡II度以上の脳症をきたし、プロトロンビン時間40%以下を示すものとする。そのうちには発病後10日以内に脳症が出現する急性型と、それ以降に出現する亜急性型がある。

 注)急性型にはfulminant hepatitis (Lucke, Mallory, 1946)が含まれ、亜急性型には亜急性肝炎 (日本消化器病学会 1969)の一部が含まれる。 欧米ではFHF fulminant hepatic failure、Acute hepatic failureが用いられる。(肝炎に限らない)。


劇症肝炎の肝移植適応基準 (第22回日本急性肝不全研究会,1996)

I. 脳症発現時に次の5項目のうち2項目を満たす場合は死亡と予測して肝移植の登録を行う

  1. 年齢:45歳以上

  2. 初発症状から脳症発現までの日数:11日以上(亜急性型)

  3. プロトロンビン時間:10%以下

  4. 血清総ビリルビン濃度:18 mg/dl以上

  5. 直接/総ビリルビン比:0.67以下


II. 治療開始(脳症発現)から5日後における予後の再評価

  1. 脳症がI度以内に覚醒、あるいは昏睡度でII度以上の改善

  2.プロトロンビン時間が50%以上に改善

 認められる項目数が2項目の場合生存と予測し肝移植登録を取り消す。0または1項目の場合死亡と予測して肝移植登録を継続する。

 ©Shuji Isaji 2017