• 三重大学医学部附属病院 感染対策チーム

    感染症予防法で、医師からの届出対象となる感染症のリストと届け出基準

    1類感染症
    (3)ペスト


    《 定 義 》

    腸内細菌科に属するグラム陰性桿菌である Yersinia pestis の感染によって起こる全身性疾患である。

    《 臨 床 的 特 徴 》

    リンパ節炎、敗血症等を起こし、重症例では高熱、意識障害などを伴う急性細菌性感染症であり、死に至ることも多い。臨床的所見により以下の3種に分けられる。
    1. 腺ペスト(ヒトペストの80〜90%を占める)
      潜伏期は2〜7日。感染部のリンパ節が痛みとともに腫れる。菌は血流を介して全身のリンパ節、肝や脾でも繁殖し、多くは1週間くらいで死亡する。
    2. 敗血症ペスト(約10%を占める)
      時に局所症状がないまま敗血症症状が先行し、皮膚のあちこちに出血斑が生じて全身が黒色となり死亡する。
    3. 肺ペスト
      ペスト菌による気管支炎や肺炎を起こし、強烈な頭痛、嘔吐、39〜41℃の弛張熱、急激な呼吸困難、鮮紅色の泡立った血痰を伴う重篤な肺炎像を示し、2〜3日で死亡する。

    《 報告のための基準 》

    診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断や血清学的診断がなされたもの

    (材料)臨床材料(血液、リンパ節腫吸引物、痰、組織等)

    • 病原体の検出
      例 ペスト菌(Yersinia pestis)の分離・同定(染色後塗抹標本の鏡検も参考となる)など
    • 抗原の検出
      例 エンベロープ(Fraction I抗原)抗原に対する蛍光抗体法など
    • 病原体の遺伝子の検出
      例 ペスト菌特異的遺伝子のPCR法による検出など
    • 当該疾患を疑う症状や所見はないが、病原体か抗原が検出されたもの
      (病原体や抗原は検出されず、遺伝子のみが検出されたものを含まない)

    疑似症の診断

    ・臨床所見、ペスト流行地への渡航歴、齧歯類に寄生しているノミによる咬傷の有無を参考に診断し、また、以下の鑑別診断がなされたもの

    • Burkholderia pseudomallei(臨床症状が肺ペストと類似)
    • 野兎病(臨床症状が腺ペストに類似し、かつ共通抗原決定基を持つ) など

    なお、血清抗体価については診断の参考として用いることができる(抗Fraction1 抗体価がpassivehaemagglutination test (PHA)で10倍以上が目安)

    《届出について》

    届出の対象 患者・疑似症患者・無症状病原体保有者(キャリア)
    届出の時期 直ちに
    届出事項 氏名・年齢・性別・職業・住所・所在地・病名・症状・診断方法・初診年月日・診断年月日・推定感染年月日・感染原因・感染経路・感染地域・その他(保護者の住所・氏名)

    《備 考》

    当該疾患を疑う症状や所見はないが、病原体や抗原は検出されず、遺伝子や抗体のみが検出されたものについては、法による報告は要しないが、確認のため保健所に相談することが必要である。

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