《 定 義 》 |
クロイツフェルト・ヤコブ病(以下、「CJD」という。)は、脳内に異常なプリオン蛋白(蛋白性感染粒子、プリオン、proteinaceous infectious particle、prion)が蓄積し、脳が海綿状となる「伝達性海綿状脳症(transmissible spongiform encephalopathy、TSE)」又は「プリオン病」と呼ばれる疾患の代表的な疾患。 |
《 臨 床 的 特 徴 》 |
本疾患の有病率は100万人に1人前後、その8割は孤発性CJDで、地域差、男女差はない。発病は50〜70歳代が多い。約2割に遺伝性CJDがあり、発病が早い(40歳代)ものもある。また、医原性感染が疑われるものに、ヒト由来脳下垂体製剤(成長ホルモン等)、ヒト乾燥硬膜移植等がある。孤発性CJDでは、初老期以降に不定の精神・神経症状が生じ、急速に憎悪し、数ヶ月で無動性無言状態となり、全経過は1〜2年といわれている。家族性CJDでは、プリオン蛋白遺伝子の変異に応じて臨床症状、経過が異なる。この場合は、静脈血から遺伝子診断が可能である。新変異型CJDは、近年、英国で報告され、20歳代の若年に発症し、不安、感覚障害等で初発し、経過が従来のCJDよりやや長い。この新変異型CJDは、異常なプリオン蛋白の泳動パターンが牛海綿状脳症(狂牛病)のものと類似していることが指摘されている。この他、亜型として、GSS(ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群、Gerstmann-Straussler-Scheinkersyndrome)、FFI(致死性家族性不眠症、Fatal Familial Insomnia)がある。
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《 報告のための基準 》 |
- 孤発性CJD
- 進行性痴呆を示し、表1に掲げる疾患を除外できる症例。
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- ミオクローヌス
- 錐体路又は錐体外路症状
- 小脳症状又は視覚異常
- 無動性無言
の4項目のうち2項目以上の症状を示す症例。
- 脳波に周期性同期性放電(PSD)を認める症例。
- CJDに特徴的な病理所見を呈する症例、又はWestern Blot法や免疫染色法で脳に 異常なプリオン蛋白を検出し得た症例。
- 疑い(possible) 上記1、2の両方を満たす症例。
- ほぼ確実(probable) 上記1〜3をすべて満たす症例。
- 確実(definite) 上記4を満たす症例。
- 家族性CJD
- 進行性痴呆を示し、表1に掲げる疾患を除外できる症例。
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- ミオクローヌス
- 錐体路又は錐体外路症状
- 小脳症状又は視覚異常
- 無動性無言
の4項目のうち2項目以上の症状を示す症例。
- 脳波に周期性同期性放電(PSD)を認める症例。
- 疾患特異的プリオン蛋白遺伝子変異が証明された症例。
- CJDに特徴的な病理所見を呈する症例、又はWestern Blot法や免疫染色法で脳に 異常なプリオン蛋白を検出し得た症例。
- ほぼ確実(probable) 上記1〜4をすべて満たす症例。
- 確実(definite) 上記4、5の両方を満たす症例。
- 新変異型CJD
- 若年発症(平均年齢:20歳代)で、亜急性進行性痴呆(発病してから無動性無言状 態にいたるまでの臨床経過が6ヶ月〜2年かかる)を呈し、表1に掲げる疾患を除外できる症例。
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- 早期に出現する精神症状(不安、抑うつ、行動異常など)
- 早期より認められ る四肢、顔面の錯感覚又は異常感覚
- 小脳症状
- ミオクローヌス、ジストニア又 は舞踏運動のいずれか1つ以上の症状
- 痴呆
- 無動性無言
の6項目のうち5項目以上の症状を示す症例。
- 脳波にて典型的なPSDが見られない症例。
- 医原性感染を疑わせる既往がない症例。
- プリオン蛋白遺伝子変異が見られない症例。
- 新変異型CJDに特徴的な病理所見(異常なプリオン蛋白からなるアミロイド斑が 多数存在し、アミロイド斑の周りを海綿状態が取り囲む、いわゆるflorid plaque)を呈する、または、Western Blot法や免疫染色法で、脳もしくは扁桃に新変異型CJDに特徴的な異常なプリオン蛋白を検出し得た症例。
- 疑い(possible) 上記1〜5のすべてを満たす症例。
- 確実(definite) 上記5、6の両方を満たす症例。
表1.CJD(孤発性、家族性、新変異型)と鑑別を要する疾患
- 老年痴呆(アルツハイマー型、脳血管障害型)
- パーキンソン痴呆症候群
- 脊髄小脳変性症
- 痴呆を伴う運動ニューロン疾患
- 単純ヘルペス、後天性免疫不全症候群などのウイルス性脳炎
- 悪性リンパ腫
- 梅毒
- 代謝性脳症(Adrenoleukodystrophy、ウェルニッケ脳症、甲状腺疾患に伴う脳症、肝性脳症、リピドーシス等)
- 低酸素脳症
- その他の原因による老年期痴呆性疾患
- GSS(ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群)
- 進行性小脳症状か痙性対麻痺のいずれか又は両方に、痴呆を合併し、表2に掲げる疾患を除外できる症例。
- プリオン蛋白遺伝子に疾患特異的な変異が認められる症例。
- 病理所見で、異常なプリオン蛋白陽性のアミロイド斑が認められる症例。
- 疑い(possible) 上記1を満たす症例。
- ほぼ確実(probable) 上記1、2の両方を満たす症例。
- 確実(definite) 上記1〜3のすべてを満たす症例。
表2.GSSと鑑別を要する疾患
- 家族性痙性対麻痺
- 脊髄小脳変性症
- 老年痴呆(アルツハイマー型、脳血管障害型)
- パーキンソン痴呆症候群
- 痴呆を伴う運動ニューロン疾患
- 代謝性脳症(Adrenoleukodystrophy、ウェルニッケ脳症、甲状腺疾患に伴う脳症、肝性脳症、リピドーシス等)
- 低酸素脳症
- その他の病因による老年期痴呆性疾患
- FFI(致死性家族性不眠症)
- 臨床的に頑固な不眠、記憶障害、交感神経興奮状態(高体温、発汗、頻脈など)、ミオクローヌスなどを認め、表3に掲げる疾患を除外できる症例。
- プリオン蛋白遺伝子のコドン178変異を有する症例。
- 病理学的に視床の選択的海綿状変性が認められ、Western Blot法で脳に異常なプリオン蛋白を検出し得た症例。
- ほぼ確実(probable) 上記1、2の両方を満たす症例。
- 確実(definite) 上記2、3の両方を満たす症例。
表3.FFIと鑑別を要する疾患
- 視床変性症
- 両側視床部血管障害
- 老年痴呆(アルツハイマー型、脳血管障害型)
- 代謝性脳症(Adrenoleukodystrophy、ウェルニッケ脳症、甲状腺疾患に伴う脳症、肝性脳症、リピドーシス等)
- 低酸素脳症
- 単純ヘルペス、後天性免疫不全症候群などのウイルス性脳炎
- 悪性リンパ腫
- 梅毒
- その他の病因による視床症候群
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《届出について》 |
届出の対象
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患者 |
届出の時期
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7日以内 |
届出事項
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氏名・性別・病名・症状・診断方法・初診年月日・診断年月日・推定感染年月日・感染原因・感染経路・感染地域 |
《備 考》 |
本診断基準による「疑い」は、それぞれの条件に該当する症例である。従って、「いわゆる疑似症」ではないので、留意されたい。
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