三重大学医学部附属病院感染対策マニュアル:

血管留置カテーテル感染予防対策


中心静脈カテーテルに関連した血流感染(Blood Stream Infection:BSI)対策を勧告し、今までの標準予防策・感染経路別予防策に加えて、カテーテル挿入という医療行為に関連した病院感染を予防することを目的とした。その為には、まず中心静脈カテーテルに伴う感染経路を知り、その対策を講じる必要があり、また感染が生じた場合にも早期に発見診断し、的確な治療が行える基本的な内容とした。


〔感染予防策〕
1.中心静脈栄養を行う際の原則

a.栄養管理が必要な場合には、可能な限り中心静脈栄養よりも経管栄養を選択する。
b.高カロリー輸液製剤を投与するにあたっては、混合する薬剤の数量を最小化し、輸液内容に関して薬剤師が積極的に関与する。
c.高カロリー輸液製剤への薬剤の混合は無菌環境下に行う。
d.高カロリー輸液製剤を混合した場合は、混合後速やかに投与を開始する。
e.薬剤師は、混合法、クリーンベンチの使用法、調整場所の選択、清潔管理に関して責任を持ち、積極的に管理する。
f.輸液内にアルブミン、脂肪乳剤を加えない。

2.使用器具の管理


aクローズドシステムの輸液ラインを使用する。
b.可能な限り内腔数の少ないカテーテルを使用する。
c.原則として、三方活栓はラインに組み込まない。
d.中心静脈カテーテルからのライン等回路の接続などの作業数を最小限にする。
e.血栓形成阻害の目的で必要に応じ、ヘパリンやワーファリンの短期的な使用を考慮する。

3.カテーテル挿入


a.カテーテル挿入部位は鎖骨下静脈を第一選択とする(手術室やICUでは内頚静脈)。
b.カテーテル挿入時には、流水および消毒剤を使用した手洗いを行い、高度バリアプレコーション(清潔手袋、長い袖の滅菌ガウン、マスク、帽子および大きな清潔覆布)を行う。
c.挿入に伴う予防的抗生物質投与は行わない。
d.カテーテル挿入部の消毒は、0.5%クロールへキシジンアルコールあるいは消毒用アルコールの消毒後ポビドンヨードで消毒?する。消毒後数分経過してから挿入行為を開始する。
e.剃毛は行わない。
f.皮下トンネルをルーチンには作成しない。

4.カテーテル挿入後の管理


a.挿入部の皮膚消毒には、0.5%クロルヘキジンアルコールあるいはポビドンヨードを用いる。
b.ドレッシングは滅菌された材料を使用する。
c.ドレッシングの交換は曜日を決めて定期的に行う。
d.カテーテルの刺入部を毎日観察し、挿入部感染をチェックする。
e.中心静脈ルートでは,滅菌したガーゼドレッシングは2日ごとの交換が,滅菌した透明ドレッシングを使用した場合には7日ごとの頻度で交換することが望ましい。

5.輸液ラインの管理


a.輸液ラインとカテーテルの接続の消毒には、消毒用アルコールか70%イソプロパノールを用いる。但し、器具に亀裂が入ることがあるので注意する。
b.一括して新品の接続システムを用いる。
c.輸液ラインを多目的に使用することは避ける。
d.三方活栓は原則として使用しない。
e.輸液セットは週に2回、曜日を決めて定期的に交換する。
f.インラインフィルターを使用した方がよい。フィルター使用時には、薬剤の投与方法に注意する。
e.脂肪乳剤、血液、血液製剤を使用したラインは使用開始後24時間以内に交換したほうがよい。

6.カテーテルの入れ替え


a.定期的にカテーテルを入れ替える必要はない。
b.刺入部の感染を伴うか否かにかかわらず、臨床症状からカテーテル感染が疑われた場合には速やかにカテーテルを入れ替える。なお、刺入部に感染がない場合には、ガイドワイアーを用いて入れ替えてもよい。


〔付記〕
〔細菌の侵入部位および感染経路〕
中心静脈カテーテル感染時の侵入部位は、輸液およびラインが外部と接触する可能性のある輸液製剤調整・保管時、カテーテル挿入時、輸液ラインおよび接続部、ならびにカテーテル自体が考えられる。

輸液調整時の汚染
調整場所、無菌調剤、無菌操作、保管

輸液ラインおよび接続部(ハブ)からの汚染
輸液剤の交換時、連結管や三方活栓、輸液ルートの延長操作、消毒薬、ヘパリンロック

カテーテル注入部の汚染
側注管、ヘパリンロック、血栓

カテーテル挿入部からの汚染
皮膚の上十分な消毒、カテーテル挿入時の無菌操作、挿入部位、挿入手技

〔血管留置カテーテル挿入時の血流感染〕
1.挿入部感染のチェック項目
毎日ドレッシングの上から挿入部を圧痛触診 圧痛、発熱、局所または血流感染の症状があれば視診(透明ドレッシングであればそのままで、ガーゼ等上透明の場合は取り除き)を行い、発赤、腫脹、膿・分泌物の有無をチェックする。
2.BSI発症防止対策および原因
中心静脈ルートで管理中にBSIが起きた場合に,輸液以外の感染の原因が考えられない時には躊躇せずにカテーテルを抜去する。 抜去した場合は、残った輸液(点滴ボトル内およびライン)、カテーテル先端チップを培養する。
3.BSIを疑った場合の血液培養
検体採取方法
留置したカテーテルからの採取は行わない。
皮膚消毒:消毒用アルコールで消毒後、2%ヨードまたはヨードホルムで2分間放置
手袋使用:少なくとも穿刺部位を触れる方は着用する。
検査方法
ロールプレート法(カテーテル先端を寒天プレートの上に回転しながらすりつける)で行う。15CFU以上の菌の検出で、菌の定着とする。
4.血流感染BSIの診断
検査結果で確認された血流感染 bacteriological sepsis
血液培養から他の部位の感染には関係ない微生物が確認される 38 ℃以上の発熱,悪寒戦慄,低血圧のいずれかがあり,更に血液培養にて一般の皮膚汚染菌が確認される
臨床的敗血症 clinical sepsis
他に確認された原因がなく,38 ℃以上の発熱,低血圧(SBP 90mmHg 以下), 尿量減少(20mL/時以下)のうち,少なくとも1つの徴候や症状があり, 更に
血液培養がされていない
血液中に微生物や抗原が検出されない
他の部位にはっきりした感染がない
医師が敗血症の治療を開始する

感染対策チームページトップへ