留学体験記

佐野貴則

2010年4月~2012年1月 Royal college surgeons in Ireland (RCSI)

 私が2010年4月から2012年1月まで留学していたRoyal college surgeons in Ireland(RCSI)はアイルランドダブリンに所在する医学院です。
アイルランド王立外科医学院と訳されますがアイルランドはかつて大英帝国の一部だった歴史からで実際RCSIは私立の大学です。アイルランドには5か所程しか医学大学がないですがRCSIは1784年創立の歴史のある医学院です。現在の建物St.Stephen's Greenには1810年に建てられました。
私の所属するDepartment of Physiology & Medical Physicsには大学院生、スタッフ全て含めて70名程在籍しています。

 私の研究テーマはてんかんによる神経細胞死とてんかん原生の分子メカニズムの解明であり、アイルランドの科学財団から助成を受けて行われています。
私の研究は扁桃体にてんかんを誘発させるカイニン酸を注入し、その前後にAntagomirというマイクロRNAを阻害する薬剤を脳室に注入し、電極をたててんかん脳波を計測し、最終的に海馬内の細胞死の減少が得られるかという研究を行いました。
約22ヶ月で数多くのマウスのてんかんモデル手術を行い、そのてんかんモデルを使用した多くの研究実績を残す事が出来ました。

 アイルランドの観光情報ですが、まず国土はアイルランド島の南側、約6分の5がアイルランド共和国、残りは北アイルランドで英国領です。面積は70,282k㎡で北海道と同じ程度、南北に約500km、東西に約300kmあります。12000年前までは氷河に覆われていた為、島の西部では代表的な自然景観である断崖絶壁が印象的なアラン諸島やモハーの断崖、一面岩が剥き出しの台地バレンなどがあります。東部には小丘陵が続く緑豊かな田園風景が広がります。気候は寒暖の差が少なく安定した西岸海洋性気候となっており夏は涼しく、冬は緯度の高い割に寒くないようです。平均気温は、1月で4~7℃程度、7月では14~17℃程度です。最低気温が-10℃より下がることや、最高気温が30℃を超えることはほとんどありません。
年間の降水量は、平野では1000mm程度で月ごとの降水量はほとんど変わりませんが、シャワーと呼ばれる細かい雨が頻繁に降るため一年を通して緑が美しく絶えることがなくエメラルドグリーンの島と言われます。

 第1公用語はアイルランド語、第2公用語は英語と規定されています。公共の看板などの多くは両言語表記されていますが一部の地方を除くとアイルランド語は日常会話ではあまり話されていません。
我々外国人にとっては英語が話せれば問題ないはずですがこの英語が問題で特徴あるアイリッシュ・イングリッシュはまた少し別に感じます。
更にアイルランドでは「標準アクセント」なるものが特になく、首都ダブリンにはもちろん『ダブリンアクセント』が存在し地域によって訛りが分かれていたりもするので、田舎の老人の発音などは全くききとれません。この英語の上達のために毎日昼食、コーヒータイムはネイティブのアイルランド人の輪に座っていますが、実はこの輪の会話が一番聞き取りづらく、多国籍のランチの輪の方が話の方が実際聞き取りやすく感じることがあります。

 人口ですが最新の統計ではアイルランド島の総人口は約560万人となっています。うちアイルランドに約390万人、北アイルランドが約170万人です。
地域別では首都ダブリンに約105万人で全人口の四分の一がダブリン首都圏に集中しアイルランド国内唯一にして最大の都市です。観光客も多いため週末のメイン通りは人で混雑します。
またアイルランドにいる日本人は約1000人程度、2007年にワーキングホリデーが認められてから順調に増加しているようです。長年アイルランドに在住している人は5年前に比べてかなり増えたと言っていますが、それでも道であうアジア人はほとんどが中国人か韓国人です。

 アイルランドの経済ですがかつては長きにわたり最貧国のひとつに数えられていましたが、1990年代に入ってからEUの統合とアメリカを中心とした外資からの投資などにより急成長を遂げました。これはケルトの虎(Celtic Tiger)と呼ばれ1995年から2000年の世界において最も経済成長を遂げた国のひとつとなりました。しかし2007年度より、経済の急激な落ち込みが始まり、2009年に入ってからは完全にバブル崩壊の状況であり、新聞・ニュースでは日々リストラなど深刻な不景気の話ばかりでたまにリストラに対する抗議運動も見かけました。最終的には私の在籍した2010年11月にギリシャに続いて経済破綻しEUとIMFが救済に入るという状態に陥りました。
残念ながらこの時期にいた多くのワーキングホリデーで来ている日本人も仕事を見つけられず、することがなく帰らざるをえないと話す人も認めました。一刻も早く経済が回復するのを願っています。しかしこの国は不景気になっても民衆は落ち込みません。というのもアイルランドには有名なパブ文化があります。パブとは日本でいう居酒屋、Barにあたります。
名産としてギネスビールやウイスキーなど多くの有名な銘柄があり、一人当たりのビール消費量は世界一というくらいでどこにでもパブがあり、不景気になっても店内・店外どこでもグラスを片手に談笑している姿をみかけます。日本とは違って基本パブでは食事もとらずただただ立ちながらビールを楽しみ、何時間も会話をするといった飲み方が特徴的です。

以上アイルランドは自然に富みとても緑の綺麗な国で、ヨーロッパの中ではマイナーな国ですが治安もよく住みやすい国ですので是非パブやケルト文化を体験しに来て下さい。




安田竜太

2008年4月~2012年4月 University of Wisconsin

 私は滝和郎教授(肩書は当時、以下同じ)の御高配により、2008年5月1日から2011年4月30日までの3年間、ウィスコンシン州立大学マディソン校(University of Wisconsin-Madison:UW-Madison)に研究留学する機会を頂きました。
私が留学した先のボスは、Charles M Strother教授で、脳血管内手術の世界的パイオニアの1人でもあります。この方の業績は凄まじく、UW-Madisonのホームページには、150以上の論文を発表し、10カ国以上から講演に招かれた、と紹介されています。しかしこのような輝かしい業績にも関わらず、それを全く表に出すことのない気さくな人柄で、教育•指導、周囲の人間への心配り、部下からの人望、家族への思いやりなど、何をとっても非の打ち所のない方で、このような人と接することはそれだけでも感化されると思います。
 ウィスコンシン州にはこれといった観光目玉もなく、酪農を主な産業としています。有名なミルウォーキーを差し置いてなぜか州都であるマディソンは、UWがあることで成り立っているような都市です。しかしこのUWのアカデミック度はとても高く、全米屈指のPh.D取得者数を誇り、研究機関として高く評価されています。このように、大学は非常に素晴らしいが、一歩外に出ると田舎で何も娯楽がないという、留学して腰を据えて勉強するのにはうってつけの環境でした。

Strother教授から与えて頂いたテーマは、①脳動脈瘤の形状と内部flowや自然史との関係の究明、②イヌを用いた脳動脈瘤モデルの開発、③脳梗塞急性期画像のdevelopment、などでした。
このうち特に①、②は、実験の計画や施行を私が主になって進めるように言われ、たくさんの文献を読んだり、調べものをしたりしました。
留学前までは前述のような日常業務の忙しさにかまけてろくに論文(特に英文)を読んでいませんでしたが、このように半強制的に勉強させられることで、何か賢くなったような気分になります。幸い論文という形にすることが出来、学会発表もさせて頂きました。一度演題がoral presentationに受かってしまったことがあり、2週間くらい前に大体のスライドを仕上げ、そこから読み原稿をずっと暗記していました。長い文は、まずアメリカ人の同僚に読んで録音してもらって、それを音として覚えてから口に出すようにしたりしていました。何とか乗り切りましたが、100人くらいのアメリカ/カナダ人の前で英語で発表すると、日本人の前で日本語で発表するのは、どれだけ人数が多くても全く苦ではなくなりました。
UWには他の国外留学先と違って三重大学出身の先輩もおらず、やって行けるのか、成果が出るのか、非常に心細い思いをしましたが、Strother教授を初め暖かいスタッフの方々に恵まれて何とかやり遂げることが出来ました。当然、言葉の問題や家族のこと、臨床活動を中止せざるを得ないことなど色々な不安要素があると思いますが、少なくとも私にとっては、これから脳神経外科医をやっていく上で大いにプラスな留学体験でした。後輩の先生方、これから入局される先生方にも続いてほしいと思います。

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