臨床・研究活動

臨床・研究グループ紹介三重大学大学院 脳神経外科学の研究グループをご紹介いたします。

先端研究

CTやMRI、脳血管撮影検査などの神経画像診断は日々進歩しています。われわれは、流体解析という新しいアプローチによって、脳神経外科領域の病気に対してのよりよい診断・治療を行うことを目的としたチームで、脳神経外科指導医・専門医を中心とした臨床医で構成されています。脳動脈瘤専用アルゴリズムを用いた4次元CTアンギオ(Dynamic Four-dimensional CT Angiography, DFA)の開発・実用化、自動車開発や宇宙開発などでも用いられるコンピューター数値流体(computational fluid dynamics, CFD)解析の医療分野への導入・実用化を行い、実際の臨床現場に活用しています。さらに、MRIで血流を可視化し流体解析を行うことのできるFLOVAを導入し、研究を重ねています。
TFSmnsSMART
脳動脈瘤・くも膜下出血
脳の動脈が風船のように膨らんだものを脳動脈瘤といいます。破裂する前の動脈瘤(“未破裂脳動脈瘤”といいます)であれば症状のないことがほとんどですが、動脈瘤が一旦破裂し、クモ膜下出血をきたすと、約半数が死亡し、その他も後遺障害を残すことの多い病気です。一方、未破裂脳動脈瘤は、健常人でも数%の人がもっているとされ、脳ドックの普及もあり、無症状で発見されることも多くなってきました。未破裂脳動脈瘤の破裂率は、平均すると1年間で約1%と言われていますが、大きなものほど破裂しやすく、場所によっても異なるとされています。
脳動脈瘤の破裂を予防するための治療には、外科的手術(開頭クリッピング)や血管内治療(カテーテル治療)などがありますが、どのような治療も“絶対”に安全なものは存在しません。そこで、治療の有用性と危険性、治療をせずに経過を見た場合の動脈瘤破裂の危険性などを考慮し、治療方針を決めていくことになります。この際、患者様にとっては、ご自身の動脈瘤が破裂するかしないのかを知りたい訳ですが、現状では、その破裂率は大きさと部位で予想するしかありません。そこで、われわれは、血管の壁の動きを見ることのできるDFAや、血液の流れの状態などを見ることのできるCFD解析やFLOVAを用いることで、患者様それぞれの動脈瘤の破裂率をより正確に予想できないかを研究をしています。さらに、脳動脈瘤の場所や大きさによっては、開頭クリッピング術やカテーテル治療に加え、血流遮断術やバイパス術を行うこともあります。この手術では、脳の血液の流れ方が変わるので、血流量が不十分になる部分ができれば、その部分で脳梗塞が起こります。そこで、手術の前に血流シミュレーションを行うことで、手術により血流量が不足する部分がないかを予測し、より安全な治療法を計画しています。欧米などの流体解析を行っている施設では、工学部出身の先生方が解析を行っている場合が多く、このような試みは、われわれのような実際に手術を行う臨床医が解析を行うことの大きなメリットと考えています。
DFA(Dynamic Four-dimensional CT Angiography)による血管壁の動きの可視化
脳動脈瘤の増大・破裂と心臓の拍動に伴う血管壁の動きの関係を研究しています。
脳動脈瘤のCFD(computational fluid dynamics)解析の結果
脳動脈瘤の発生・増大・破裂には、ずり応力(wall shear stress, WSS)などの血行動態が関与するとされていますが、 そのメカニズムは未だ不明です。コンピューター流体解析を行い、これらを解明するための研究を行っています。
中大脳動脈瘤における破裂例と未破裂例の血行力学的特徴
未破裂例に比較し、破裂例では、WSS, NWSS, WSSG, AFIが有意に低く、OSIが有意に高かった。この結果は、low flow theoryを支持する結果で、脳動脈瘤の破裂状態を区別できる可能性を示唆した。
※WSS = wall shear stress; NWSS = normalized WSS; OSI = oscillatory shear index; WSSG = WSS gradient;
  GON = gradient oscillatory number; AFI = aneurysm formation index
頚部内頸動脈狭窄症
頚部内頸動脈狭窄症とは、主として大脳に血液を送る内頚動脈が頭蓋内に入る手前の頚部(首)で、動脈硬化症などの原因により狭く(“狭窄”といいます)なる病気です。狭窄により血液の流れが妨げられると、脳への酸素や栄養分の供給ができなくなります。また、狭窄部にできた血栓(血のかたまり)が脳動脈を閉塞させ、脳梗塞を生じることがあります。このように、頚部内頚動脈狭窄症は脳梗塞の原因となることがあるので、脳梗塞を予防するための治療が行われます。治療方法としては、内科治療、外科治療、血管内治療がありますが、狭窄率が大きくなると外科的治療や血管内治療が勧められます。外科治療は、狭窄部分の血管を切開し、血管を狭くしているプラークを除去して血管を広くする“内膜剥離術”が行われます。血管内治療は、カテーテルによる治療であり、ステントという金属製のメッシュでできた内張りを、狭窄部を広げた後、留置します。これを“ステント留置術”と呼びます。これらの治療は合併症も少なく有用な治療方法ですが、外科治療でも血管内治療でも術後に再び狭窄が増悪してくること(“再狭窄“といいます)が数%あり、それには乱流や炎症が関与するとされています。われわれは、治療後の血流動態を調べるためにCFD解析を行い、再狭窄との関連を研究しています。
内膜剥離術後のCFD解析の結果
くも膜下出血に関する基礎研究
脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血は脳卒中の中でも最も予後不良な疾患です。予後を改善するために、くも膜下出血後に生じる脳血管攣縮と呼ばれる遅発性虚血性脳障害の原因となるくも膜下出血特有の現象の病態解明および新規治療法の開発を目指した研究を精力的に行っています。最近では、脳血管攣縮とは必ずしも関連しない様々な脳損傷(血液脳関門障害や神経細胞のアポトーシスなど)に関する研究も行っています。その成果は高く評価され、多くの論文を国際誌に発表しています。また国内外の学術賞を受賞しています。
くも膜下出血後の脳血管攣縮
脳動脈壁のテネイシンC発現抑制における脳血管攣縮発生抑制
オステオポンチン(OPN)は血液脳関門障害を抑制
脳血管内手術用デバイスの開発
脳血管内手術は、特に脳血管障害の治療に劇的な進歩をもたらしました。一方、依然、解決すべき課題は多くあります。我々は脳血管内手術の治療成績を更に向上させるため、液体塞栓物質、ステント、脳動脈瘤用コイルなどのデバイスの開発・改良に関する研究を行っています。既にその成果のいくつかは特許を取得あるいは申請中です。現状では脳血管内手術用デバイスの多くは米国からの輸入に頼っていますが、いずれ臨床応用し、本邦発のデバイスを送り出したいと考えています。
脳動脈瘤の器質化を促進する寒栓用コイルの開発
てんかん原性の分子メカニズムの解明
 当教室ではてんかん原性の分子メカニズムの解明のためアイルランドのダブリンに所在するアイルランド王立外科医学院Royal College Surgeons in Ireland (RCSI)のDavid Henshall教授のてんかん研究グル―プと共同研究を行っています。現在まで計7名の脳神経外科医が10年以上共同研究を行い多くの業績を報告してきました。
 研究の中心は、てんかんによる神経細胞死におけるアポトーシスの解明でC57Bl6マウスの扁桃体にカイニン酸を局所的に投与することで一側側頭葉てんかんマウスモデル作成し、各種遺伝子・microRNA・タンパク質などの変化を研究しアポトーシスの制御を研究しています。
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