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からだに優しい低侵襲治療


ロボット(ダビンチ)支援腹腔鏡下前立腺全摘術対する当院の取り組み

前立腺がんに対する手術治療の進歩には目覚ましいものがあります。近年、ロボット(ダビンチ)の支援による腹腔鏡下手術が開発•臨床応用され、急速に普及しております。泌尿器科領域では、2012年4月より前立腺全摘術が保険適応となっております。 2014年7月で、国内には172台導入されており、世界で2位の普及率であり、2014年1月の時点で、国内10100件の泌尿器科手術が施行されています。当院では2014年11月よりダビンチの納入とともに、泌尿器科医•麻酔医•手術室看護師•臨床工学士らのチームを結成し、泌尿器科医の手技習得およびダビンチ手術の見学などの研修とトレーニングを施行してライセンスを取得し、2015年2月よりロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘術を開始しております。 三重大学腎泌尿器外科が、三重県内において初めてのダビンチ手術の導入となりますが、今後は、泌尿器科手術のみならず一般外科•婦人科•呼吸器外科•耳鼻咽喉科などの多領域におけるダビンチ手術が普及していくと予想されております。

ロボット支援下前立腺全摘出術の概要

ダビンチは最先端の手術支援ロボットです。
1990年代に米国で開発され、1999年よりIntuitive Surgical社から臨床用機器として販売されています。ダビンチは、あくまで外科医(術者)が行う手術操作を支援するための装置であり、ダビンチが自動的に手術をするものではありません。本手術は、これまでの鏡視下手術にロボットの機能を組み合わせて発展させた術式であり、1~2cmの小さな創(6カ所)より内視鏡カメラとロボットアームを挿入し、高度な内視鏡手術を可能にします。 術者は3Dカメラによるリアルな立体画像(ズーム機能により最大15倍の拡大視野が得られる)を見ながらあたかも術野に手を入れているようにロボットアームを操作して手術を行います。また、人の手より1本多い3本のアームを自分の腕のように自由に操作が可能であり、2回転以上も回るエンドリストという自分の手指のような鉗子で緻密な手術を可能とします。
このように、ダビンチ手術は、鏡視下手術と同様に患者さんの体に小さな穴を開けて行うため、傷口が小さい低侵襲の手術です。この術式は出血量を極端に抑え、術後の疼痛を軽減、機能温存の向上や合併症リスクの大幅な回避など、さまざまなメリットがあります。早期の社会復帰を可能とさせます。

ダビンチ画像
ダビンチ手術の様子を示しますが、この写真のように当院においては2人の術者が手術できるダブルコンソールタイプの装置(Davinci Si)が導入されており、手術の安全性の確保とともに、手術指導(教育)の面でも有用な装置となっております(Intuitive Surgical, Inc.より引用)。

ダビンチ画像2ダビンチ画像3

手術操作は写真のように両指によりロボットアームに設置されたエンドリストという鉗子や鋏を持遠隔操縦します(Intuitive Surgical, Inc.より引用)。このエンドリストは、腹腔鏡の鉗子と異なり540度あらゆる方向に動作でき、実際人間の手先より器用に正確な動きをしてくれます。さらに手ぶれも無く、右利きの術者でも左手の動作も全く不自由無く行えます。現時点でも最大の難点は、触感のフィードバックが無い事です。 通常の手術では、臓器の固さなどが鉗子にて触る事で、良くわかりますが、ロボットの場合は全く固さ柔らかさなどの感覚が得られず、視覚的に想像して剥離や結紮などの作業をする事になります。将来的には、触覚のフィードバックが得られる装置が開発され、より安全でリアリティーに富む、理想的な遠隔手術が可能となるかと思われます。

ロボット支援下前立腺全摘出術の実際

前立腺全摘出術の適応は前立腺に限局したがん(前立腺被膜を超えて浸潤した、局所進行癌も含みます)になります。手術の内容は、前立腺と精囊腺を一塊にして摘出し、膀胱と尿道を吻合します。(下図参照)

図1

麻酔は、全身麻酔+硬膜外麻酔にて行います。体位は載石位(両脚を開いた状態で拳上し膝を軽く曲げる)で、頭方向に25度ほど下げた頭低位(内視鏡が体にあたるのを防ぐためこのような体位になります)にて行います。このため、緑内障など眼圧が高く頭を下げる体位維持が困難な場合は本術式を行うことができません。
体位を取った後に、下図に示しますように、腹部に通常は6か所の5~12mmの皮膚切開をいれ、ここにトロカー(手術器具を出し入れするための筒状の器具)を挿入します。

図2

お腹を経由するため、大腸や直腸、小腸の手術など下腹部手術の既往のある場合も本術式ができないことがあります。手術中は二酸化炭素でお腹を膨らませ内視鏡と臓器の距離を保つようにします。所属リンパ節の廓清(低リスク症例では省略することもあります)、および前立腺、精嚢腺を摘出し膀胱と尿道を縫合します。膀胱にカテーテル留置し腹腔内にたまる出血やリンパ液、尿などを出すための排液管を挿入して手術は終了になります。前立腺は、通常中央の臍上部の穴を1cmほど拡張して摘出します。

図3
ダビンチ前立腺摘出術中の様子(中央が前立腺、ロボット鉗子による前立腺尖部の剥離)

手術日は回復室にてベット上安静ですが、手術翌日より歩行は可能です。飲水は翌日から、経口摂取は腸管の麻痺が改善してから再開になります。排液量が50ml/日以下で排液管を抜去、手術1週間後に膀胱造影を行い吻合不全がないことを確認して膀胱留置カテーテルを抜去します。その後問題なければ退院許可となります。

ロボット支援下前立腺全摘出術で起こり得る合併症

ダビンチ手術は、多くの利点を持っておりますが、手術治療であることには変わりなく、従来の解放手術や腹腔鏡手術と同様の合併症とともに、とくにダビンチ手術関連した合併症を認めます。以下に代表的な合併症について説明します。

  1. 出血
    前立腺の周辺には豊富な血管があり、出血は必ず起こります。特に前立腺肥大症を合併した患者さんや、勃起神経の温存をする場合、電気凝固止血が制限されることと前立腺周辺の血管を温存する剥離層で処理を進めるため出血量の多くなる可能性がありますが、通常のダビンチ手術では出血量は極めて少ないです。
  2. 他臓器の損傷
    前立腺周囲には膀胱、尿管、直腸や小腸、神経があり、骨盤内には下肢や骨盤内臓器に向かう腸骨動静脈があります。手術の際にこれら他臓器損傷が生じる可能性があります。とくに直腸と前立腺の癒着を認める患者さんにおいては、ダビンチ手術においても直腸損傷の可能性があります。
  3. 術後腸閉塞、腹膜炎
    ロボット支援下前立腺全摘出術は腹腔内からの操作になるため、術後腸閉塞や小腸の損傷による腹膜炎などが生じて再手術が必要になる可能性があります。
  4. 術後深部静脈血栓症、肺梗塞
    術中の載石位や術後安静臥床により下肢の血流がうっ滞し、下肢の静脈(特にふくらはぎの部位の静脈)に血栓ができることを深部静脈血栓症と言います。これが静脈から剥がれ心臓に戻り肺動脈が詰まることを肺梗塞と言います。これはどんな手術の後でも生じ得ます。生じてしまうと致死的となり得るため、血液のうっ滞を防ぐための弾性ストッキング着用や術中のフットポンプ使用、早期離床により予防に努めております。
  5. 下肢コンパートメント症候群
    希な合併症ですが、載石位による下肢の圧迫により浮腫が生じて筋肉が挫滅することを言います。下肢腫脹と疼痛なので気付かれます。程度が強い場合は筋膜の減張切開が必要になります。下肢の痺れや可動傷害など後遺症が残る場合もあります。下肢の固定と術中の下肢の状態のモニターリングに注意を払い、この合併症が発生しないようにしております。

  6. その他、一般的な手術治療に関連した合併症(術後肺炎や創感染などの感染症)はダビンチ手術においても認める事があります。入院後にこれら手術合併症に関しても、十分なご説明をさせていただきます。

なお、前立腺全摘術の代表的な副作用としては、尿失禁と勃起機能障害があります。これらの副作用は開放手術および腹腔鏡手術でも起こりますが、ダビンチ手術は、良好な視野と微細で正確な手術操作ができ、これらの副作用に対しても良好な成績が得られております。

術後の排尿状態(尿失禁)について

前立腺は膀胱と尿道の間に位置し、前立腺の尿道側には尿道括約筋が存在しています。手術では前立腺を摘出し尿道と膀胱を吻合するので、術後しばらくは尿失禁(咳やくしゃみをするなど腹圧が加わる時の尿漏れ;腹圧性尿失禁)は必ず生じます。尿道の長さや尿道括約筋の形態には個人差があり、術後尿失禁が多くなる場合もあります。尿失禁は術後1年ほどかけて徐々に改善することが多いです。

術後の勃起機能について

前立腺両側には勃起を司る神経があり、これを温存することで術後の勃起機能温存が期待できます。またこの神経は尿道にも作用していると考えられ、さらに神経周囲には血管も豊富に存在するため(神経血管束と言います)、これらを温存することは尿禁制に対しても良い影響を及ぼすと考えられています。ロボット支援手術は拡大視野と繊細なロボットアームの操作により通常の手術よりも機能温存に優れています。術後勃起可能となるのは片側の温存で3~4割、両側の温存でも5~6割ほどと言われています。
以下に前立腺全摘術の比較表を示します。

表1
(東京医科大学のHPより引用)

ダビンチ手術をご希望の方へ

当科におけるダビンチ手術をご希望の方、さらにダビンチ手術の詳細をお知りになりたい方は、担当医の紹介状(診療情報とCTやMRI画像が取り込まれたCDとともに)をご持参していだだき、当科ダビンチ手術担当の杉村(水曜日)の外来(初診)の受診をお願いいたします。

図4

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