HOME > 当科における特色ある診療 > からだにやさしい抗がん剤療法

近年、新規の抗がん剤の開発が進むとともに、副作用を軽減する支持薬も多数開発され、からだに優しい抗がん剤治療が施行されております。とくに、泌尿器科のがん患者さんは、高齢の方が多く、治療効果とともにQOL(生活の質)が維持できる薬物治療が望まれます。当科では、主に腎がん、腎盂尿管がん、膀胱がん、前立腺がんに対して患者さんのQOLに重きをおいた抗がん剤治療を行っていますので紹介します。
腎がん(腎細胞がん)に対する治療方針としては、まず手術的に病側の腎臓を摘出する事が可能かどうか検討します。手術が困難、もしくは手術後他臓器(肺や骨など)に転移を確認した場合、免疫療法(インターフェロン、インターロイキンなど)が行われます。しかし、残念ながら奏功率は10%前後と考えられています。しかし、2008年になって新しいタイプの薬剤である分子標的治療薬(ネクサバール、スーテント)が発売になりました。これらは、血管新生や細胞増殖に関わる分子に作用する薬剤です。2010年にはもう一剤新規の分子標的治療薬が発売されます。これらの薬剤は内服薬であり、投与当初は入院にて経過を見ますが、通常は外来通院にての治療が可能です。当科では、さらにこれらの分子標的治療薬にも効果が認められなくなった場合は新しい抗がん剤を用いた化学療法を行っています。
尿路上皮がんに対して、行う化学療法(抗がん剤治療) は一般的には、M-VACと呼ばれる4剤併用療法が一般的で、有効性も確立されております。
しかし、M-VAC療法は、長期入院が必要であり、骨髄抑制、食欲不振、脱毛などの副作用がきつく、患者さんにとってはつらい治療でした。また、この治療に対して反応が悪い場合、もしくは腎機能が十分でなく本治療が行なう事が困難な場合があります。当院においては、M-VAC療法から、Gemcitabine(商品名ジェムザール)を使用(2008年に認可)とシスプラチンとの併用療法を積極的に施行しております。Gemcitabineによる化学療法の有効性は従来のM-VAC療法と同等である上、副作用はM-VAC療法はるかに軽減されており、患者さんのQOLは良好です。
前立腺がんは、ホルモン治療に感受性が高く、男性ホルモンを下げる抗アンドロゲン治療に反応は良好であり、保存的治療として重要な治療方法です。しかし、残念ながら、治療経過の中でホルモン耐性(ホルモン治療の効果が無くなる)になることが知られています。従来の抗がん剤は、前立腺がんに対して、生存を延長する事が困難と考えられ、適応が少ないと考えられて来ました。
最近docetaxel (商品名タキソテール)による化学療法が海外では、多くの患者さんに施行されており、生存を延長することが明らかになってきました。日本においても、2009年より前立腺がんに対して保険適応になりました。当院においては、docetacel+estramustine(商品名エストラサイト)による化学療法を導入し、安全に施行しております。当院の投与スケジュールの特徴として、安全性かつ生活の質の安定を最優先するため、間欠投与を行っていることが上げられます。現在までの治療成績は、初期治療後の効果判定において、PSAの反応は(増悪傾向が抑えられたのは)71%の方に認められました。一時休薬後も83%のか方で反応がありました。 1年半生存率74%、治療開始後2年を越えご存命の方も見 えます。副作用として、骨髄抑制(白血球、赤血球、血小板の減少)、それに伴う出血、感染症、末梢神経障害、脱毛、爪床出血などで、比較的重篤な副作用は少ないため、高齢者にも施行加能です。
前立腺がんの場合、治療選択として様々のものがあります(治療せずに経過観察、ホルモン療法、根治的手術、放射線など)。ホルモン治療とは、男性ホルモンの血液中もしくは、前立腺内の組織内濃度を下げてやると、前立腺がん組織の活性が落ちると言う理論のもと行われる前立腺がん特有の治療方法です。
そのホルモン治療の内容に関しては、注射剤のLH-RHアゴニスト(脳に働き、血液中の男性ホルモンを低下させる)と、内服薬の抗アンドロゲン剤(前立腺組織内で男性ホルモンが作用するのをおさえる男性ホルモン受容体阻害剤)の2種類の治療薬が主に使われています。現在の主流は、ホルモン治療開始時より、LH-RHアゴニストと抗アンドロゲン剤を併用するinitial-CAB療法ですが、早期から同時に2剤を使用する方法が一番適切かどうかは議論があるところです。また、LH-RHアゴニストと抗アンドロゲン剤2剤を同時に使用する用法が、LH-RH agonist単剤よりも、生活の質を低下させることが明らかになっており、2剤をずらして使用する方法が検討されています。
我々は2001年より、LH-RHアゴニスト投与後PSA の変動に合わせて抗アンドロゲン剤を追加する、delayed-CAB療法の検討を始めています。56.8%の方が、LH-RHアゴニスト単独療法にて7年間PSAが測定感度以下に維持されていました。また、LH-RHアゴニスト単独療法にてPSA上昇が確認されて方でも、抗アンドロゲン剤を追加することにより、57.2%の方が5年間PSAが測定感度以下に維持可能でした。上記結果を踏まえると、LH-RHアゴニスト単独療法にて、56.8%の方が維持でき、delayed-CAB療法にて、90%近い方が、治療開始時から2剤を併用することなく、病気が維持でき可能性が高い事が考えられます。限局性前立腺がんに対して、delayed-CAB療法で十分な効果をもたらすのではないかと考えて追加検討中です。