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前立腺がん

前立腺がんは米国においては男性における悪性腫瘍発生率の1位を占め,死亡率は肺がんに次いで2位を占めています。一方、日本においては前立腺がんの死亡率は6-8位で低いものの、近年の高齢化社会を反映して増加傾向にあり、この増加傾向は生活様式の欧米化とともに欧米の値に近づくものと考えられ、2004年における生涯罹患リスクが6%(17人に1人)が、2025年には15%(6-7人に1人)と急増すると将来予測されております。前立腺がんの死亡率が高い地域は北アメリカとヨーロッパであり、わが国を含めアジア地域は低いとされています。実際、前立腺がんの年齢調整発生率は米国の黒人(82.0)と日本人(6.7)を比較しますと約12倍の差があります。このような米国とわが国との前立腺がん発生率の差の説明として、

  1. 人種および遺伝的な要因
  2. 食事をはじめとする生活習慣などの後天的な要因
  3. 前立腺がんのスクリーニングの差
  4. 前立腺がんの診断・登録システムの差

の4つの要因が考えられています。また前立腺がんの特徴として、高齢者の30~40%という高頻度に潜在がんを認め、この頻度は欧米とわが国では差はないことが知られています。潜在がんの頻度が同じなのに臨床がんの頻度にこのような地域差がありますことから、潜在がんから臨床がんへの進展において後天的な要因すなわち食事をはじめとする生活習慣の関与が予想されます。例えば食生活においては米国の脂肪摂取量はわが国の約3倍であり、高脂肪食を代表とする欧米化した食習慣が前立腺がんの危険因子と考えられています。

前立腺がんの臨床病期分類

わが国では前立腺がん取り扱い規約による臨床病期分類(ステージA,B,C,D)が用いられています。
ステージAはたまたま前立腺肥大症手術標本内に組織学的にみつかった偶発がんです。ステージBはがんが前立腺内に限局している場合であり、ステージCはがんが前立腺被膜を越えて侵襲していますが転移を認めません。ステージDは骨、リンパ節などに遠隔転移がある場合です。近年ではTNM Systemに準じ、直腸診および超音波所見と腫瘍マーカー値を考慮しました臨床病期分類が提唱され、とくに臨床所見が無いPSA検査の異常により発見された前立腺がんをT1C がんが増加しています。

症状の特徴と診断の流れ

前立腺がんは非常にゆっくりと進行する特性を持ち、その臨床症状も明確でなく、とくに高齢者には前立腺肥大症が多いことから、がん特異の症状を呈することは少ないです。 ステージAおよびBでは前立腺がんによる臨床症状は乏しいですが、ステージCおよびDでは排尿障害、出血、膀胱刺激症状や排尿痛などが起こります。さらにステージDでは遠隔転移による症状、とくに骨転移による疼痛などが出現します。
前立腺がんの診断手順としては、スクリーニングとして、直腸内前立腺触診前立腺腫瘍マーカーの測定と経直腸的前立腺超音波検査(transrectal ultrasonography ; TRUS)が行われます。さらに確定診断のためには、前立腺硬結部の生検やT1C がんの場合など無作為多個所生検(6~12個所)により組織学的にがんを証明します。前立腺がんの生検組織像は、国内の規約分類では分化度に従い高分化腺がん、中分化腺がん、および低分化腺がんの3つに分類されますが、欧米で頻繁に用いられる構造異型を重視したグリソン分類も付記されることが多いです。

図1

臨床病期診断(局所進展度および遠隔転移の診断)には骨シンチグラフィー、CT、MRIおよび膀胱尿道鏡などの泌尿器科的画像診断検査を必要とします。
前立腺がんの転移臓器としては、骨転移がもっとも多く、骨シンチグラフィーはステージングのために必須です。

前立腺がん検査の流れ

腫瘍マーカーとMRIによる早期診断

前立腺がんの腫瘍マーカーとしては、前立腺特異抗原(prostatic specific antigen : PSA)の測定が主に行われます。PSAは前立腺肥大症において約20%の偽陽性を示すものの、未治療前立腺がんにおいて80~90%の陽性率を示します。また、早期前立腺がんの診断に有用ですし、内分泌療法あるいは手術療法の治療効果判定および再燃に対する経過観察に重要です。本腫瘍マーカーは正常前立腺分泌酵素を測定しており、疑陽性および疑陰性に注意を要します。最近の前立腺がん検診はこのPSA検査単独にて行われており、ヨーロッパでは大規模な無作為調査によりPSAスクリーニングの有効性が疫学的に証明されております。
近年、当科では、PSA高値の患者において、前立腺生検検査前に、MRI画像とくに拡散強調画像による評価をしております。とくにグリソン4以上の高悪性度のがん細胞病変の局在診断に有用と思われます。前もってMRI画像による評価を行う事により、疑い病変部位を標的とした効率の良い生検ができるかと考えております。

図2
拡散強調が像のMRI:矢印の部位にがん病変が疑われる

治療

基本的には他の固形がんに対する治療方針と同じく、ステージAおよびBの限局性の腫瘍に対しては外科的切除が適応となり、局所進展性あるいは転移を有します進行性腫瘍に対しては保存的治療が行われます。近年は副作用の少ない内分泌療法としてLH-RHアゴニストが登場し、前立腺がんの治療も大きく変化してきています。さらに、前立腺がんと診断されても高齢であり高分化のがんでは、無治療で経過を見ることも試みられています。また、放射線治療も有用であり、とくに最近ではI125を用いた永久核種埋め込みによる組織内照射(ブラキセラピー)が、認可され注目をあびています。前立腺がんほど、いまだに治療法が一定していない悪性腫瘍はないと考えられます。

手術療法

手術療法は根治性を期待し得る唯一の治療であり、前立腺および精嚢腺と所属リンパ節を含めた根治的前立腺摘出術が行われます。施設によって異なりますが、一般的には日本人の平均余命として10年以上が期待できる75歳未満の患者に適応とされます。前立腺を摘出しました後は、膀胱と遠位尿道を吻合することにより尿路変更は必要としません。本手術の合併症として重要なものは、尿失禁勃起障害ですが、神経温存手術などの手術手技の向上に伴い、これら合併症も克服されてきています。前立腺全摘術の治療成績としては、術後病理にて前立腺内に限局している場合で5~10年非再発率は80~90%であり、最も根治が期待できる治療法と考えられます。
手術の術式には、通常の開放性手術と腹腔鏡手術が施行されています。当院では、2015年よりロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘術が施行されております。

手術療法

内分泌療法

内分泌療法の目的は、アンドロゲンの除去にありますので、従来は外科的去勢術(surgical castration)が行われてきました。
現在の薬物による去勢(chemical castration)には、間脳下垂体に作用してアンドロゲン分泌を抑制する黄体形成ホルモン放出ホルモン(LH-RH)アゴニストが広く使用されています。本剤の副作用としては、ほてりあるいは熱感(ホットフラッシュ)が比較的多く認められるようですが、本剤は徐放性製剤で4週間あるいは12週間に1回の皮下投与のみであり、コンプライアンスも良好です。また、近年では、LH-RHアンタゴニストが登場し、速やかに血中アンドロゲンレベルを低下させ、ホットフラッシュを認めない皮下注射剤として臨床応用されております。とくに、骨転移など病態の進んだ患者さんには有効と考えられます。
抗アンドロゲン剤としては、LH-RH製剤により除去できない副腎性アンドロゲンの標的細胞におけるアンドロゲン作用発現を障害しようとするものです。非ステロイド性抗アンドロゲン剤としては、フルタマイドおよびビカルタミドがあります。また、抗アンドロゲン剤とLH-RH製剤との併用療法による完全アンドロゲン除去療法(total androgen blockade)が内分泌治療の標準治療として広く行われています。
なお、内分泌療法は前立腺がんの約80%に制がん作用をもつものの、とくに全身転移を認める進行性前立腺がんの患者においては、3~5年後にはこの半数以上が再び増殖を認め、去勢抵抗性前立腺がん(castration resistant prostate cancer: CRPC)となり治療に苦慮するのが現状です。しかし、2014年より新規の内分泌治療薬であるアビラテロンとエンザルタミドが登場して、CRPCに対する治療法も変化しております。アビラテロンは、組織中のアンドロゲン産生に関する酵素を阻害して血中のアンドロゲンを低下させます。エンザルタミドは、アンドロゲン受容体を強力に阻害してアンドロゲン作用を抑制します。これらの新規の薬剤の使用法についてはまだ標準化されていなく、今後の臨床研究の結果が待たれております。

抗がん剤

近年、新規抗がん剤であるドセタキセル(70mg/m2(3週間毎)の投与、あるいは低用量の毎週投与)による抗がん治療の有効性が確認され、CRPC患者に頻繁に使用されております。この治療によるPSAの反応は、PR以上(投与前PSAと比較して、50%以下に低下する、もしくは正常値になる)は35~68%前後であり、中間生存も12-20ヶ月です。投与方法については、対象となる患者が高齢であるため好中球減少などの副作用軽減とQOL維持に注意する必要があります。2014年より、ドセタキセルより効果の強い抗がん剤カバジタキセルが登場して、ドセタキセルの効果が認められなくなった患者に投与されております。本剤は、血液毒性がドセタキセルより強く、注意を要します。

放射線治療

放射線治療の適応としては、ステージBにおいては根治的照射をめざします。またステージCでは、内分泌治療と放射線治療(主に外照射)の併用で前立腺がん部の局所コントロールの働きもあり、良好な成績も報告されています。さらにステージDの患者さんでは、骨転移に対して疼痛緩和の目的で頻繁に放射線治療が行われています。また、70歳以上の高齢者や合併症があり手術ができない患者さんおよび手術を希望しない患者さんなどでは、ホルモン療法をせずに比較的よい成績が得られること、インポテンスの副作用が少ないことなどから、患者さんの希望により放射線治療が選択されることもあります。最近の放射線治療技術の進歩により、早期前立腺がんの治療成績は手術治療に匹敵すると考えられます。
放射線療法には外照射法と組織内照射法があります。外照射法は外来で治療が可能で、通常1日1回週5回照射し、約1ヵ月半程度の治療期間が必要になります。 外照射法では、前立腺だけでなく周辺の臓器にも放射線が当たるため、副作用として、直腸粘膜の潰瘍や出血、膀胱、尿道への影響、勃起障害などが起こる可能性があります。通常の外照射治療の総線量は65~70 Gyが目標です。副作用を軽減するため、なるべく前立腺にだけ照射できるようコンピュータで三次元的に解析して治療する技術として強度変調放射線治療(IMRT)が開発されています。IMRT により、照射線量を増やしながら副作用を軽減させることが可能となります。前立腺がんに対しては、最大78 Gyまで増量可能と言われており、臨床的効果は前立腺全摘術とほぼ同等と報告されております。 一方、組織内照射法は小線源治療(ブラキセラピー)ともよばれ、放射線を出す小さな金属をがん病巣のなかに直接挿入し、放射線を照射する方法です。前立腺がんの小線源治療は3~4日の入院で、通常腰椎麻酔下でおこなわれます。この本法により、おおよそ140~160Gyが前立腺全体に照射されます。また、局所進展性の前立腺がんの場合には、外部照射法との併用が行なわれます。この治療の利点は、前立腺全摘術に比べて侵襲が少なく、外部照射法に比べて治療期間が短いことから、早期に社会復帰することが可能なことです。前立腺全摘術で問題となる尿失禁勃起不全は、小線源療法では少ないと言われています。
最後になりますが、現在日本でおこなわれている前立腺がんの放射線治療として重粒子線(重イオン線)治療があります。この治療法はかなり大掛かりな設備が必要であり、全国でも限られた施設にしか本装置が配備されていませんし、簡単に治療が受けられるわけではありません。本治療法は、現時点では、保険適応でないため高額医療となりますが、5年生存率や局所制御率などの治療効果が確認され、副作用についてもIMRTと同等か少ないことが報告されており、低侵襲の新規治療法として期待されています。

骨転移に対する治療

図3
骨シンチグラフィーによる骨転移の検出;黒い部分が転移病変

前立腺がんは、高率に骨に転移します。最近のPSA検診により早期がんが増加しておりますが、まだまだ転移がんで見つかる患者さんも決して少なくありません。従来より転移部位とくに疼痛コントロールと骨折予防目的で、放射線外照射が施行されてきました。近年では、骨吸収を抑制してがん細胞による骨破壊を抑制する作用を持つ薬剤であるゾレドロン酸およびデノスマブ(抗RANKL抗体)が、骨転移に対する薬物治療として、臨床応用されております。これらの薬剤は、転移部位の骨折の予防効果などの有効性が確認され、骨転移患者のQOL向上に寄与しております。このような薬剤の副作用では、アゴの骨が壊死に陥る(顎骨壊死)が問題となっており、使用前には必ず口腔外科を受診していただき虫歯治療などの口腔ケアをしていただきます。

前立腺がんの予後

下図は、日本泌尿器科学会が2005年に全国調査を施行した結果を示しております。横軸は観察期間で、縦軸は生存率を示しております。前立腺がんは、比較的緩徐な進行をし、転移の無いステージA, B ,C (下図のM0, MX)の予後は良好であり、6年生存率はほぼ100%です。しかし、転移を認めるステージD(下図のM1a,b,c)では、6年の生存率は50—60%と極端に低下します。この予後のグラフからもいかにPSA 検査による早期発見が大切かよくわかります。また、転移がんはCRPCになり治療が困難なために、予後不良となりますが、今後CRPCに対する治療法の開発が望まれており、当科もCRPCに対する基礎研究を重点的に行っています。

図4

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