パネルディスカッション/Panel Discussion

小児のマスク換気のコツとポイント

福岡市立こども病院・感染症センター 医療主幹(手術部・集中治療部総括担当)
秦 恒彦

Skills of Face Mask Ventilation for Pediatric Anesthesia

Tsunehiko Shin, MD
Executive Director, Operating Rooms and Intensive Care Unit
Fukuoka Children's Hospital and Medical Center for Infectious Disease



 小児麻酔において気道確保の基本は、麻酔用フェイスマスク (以下マスク)を使用して空気の通り道を保持することに尽きる。長時間の確実な気道確保は気管挿管であるが、気管挿管はマスクによる児の酸素化と炭酸ガスの排泄 が確実に行なえてから、初めて安全に施行できる。患児が低酸素または高炭酸ガス血症に陥っているときに、その 状態を改善せずに闇雲に気管挿管をしようとすれば、患児の状態をさらに悪化させ心停止を来す事も希ではない。

 小児用マスクは種々のサイズ(通常0〜 5などの番号が刻印されている)があり、患児の顔を見てそのサイズを決 める。マスクの外縁が完全に児の鼻と口を覆い、眼には掛からず、少し口を開けても下唇がマスクからはみ出さな いのが至適サイズである。至適サイズがどちらか迷うときは複数のサイズのマスクを準備する。マスクは出来れば 透明なものを用いる。その理由は、チアノーゼの発現や分泌物の増加などが、マスクを患児の顔から外さず容易に 発見できるからである。

 小児は成人と比べて、アデノイドや扁桃が大きく、前投薬、吸入麻酔、静脈麻酔などで口腔近傍の筋の緊張が低 下すると、成人ではまだ気道が開通しているような麻酔深度でも、容易に気道閉塞を起こす。気道閉塞状態になる と急速導入では患児の状態が悪化するし、吸入麻酔による緩徐導入では麻酔深度がなかなか深くならないという弊 害をもたらす。これを防ぐには、以下に述べるようなポイントに注意し、マスク換気法をマスターする必要がある。 この方法を身に付ければ、小児の麻酔のみならず、救急蘇生の現場においても自信を持ってマスク換気を行なうこ とができる。

 マスク保持のポイント:施術者の中指を児の下顎骨の先端に、小指を下顎角に、薬指はその中間の下顎骨に掛け、 下顎をすこし挙上しながらマスクを顔に密着させ、マスクの上端を親指で、下端を人差し指で抑える。この状態を 上から見ると、アルファベットのE(小指、薬指、中指の3 本)とC(人差し指と親指で作ったカーブ)の形になるので、 ECクランプ(図1)と呼ぶ1)。このECクランプの形を保持したまま、下顎を引き上げると下顎骨に付着した舌根も伴 に引き上げられ、気道が開通する。これでも気道が開通しない場合、マスクをフィットさせたままで患児の頭部を 右または左に少し傾けてみると、気道が開通するところがあるので、この状態を保ち補助呼吸、または調節呼吸を 行なう。気道が開通しないままで無理に陽圧呼吸を続けると、麻酔ガスは食道を通り胃内に貯留する。この状態は そのままでも換気を妨げるし、覚醒時の嘔吐の誘因となるので、肺に気体が十分送り込まれていないと判断される ときは、再度マスク保持を最初からやり直して陽圧呼吸を行なうか、自分で行なうのは諦めて上級者に交代すべき であろう。

図1.ECクランプ(文献1)より



文献

1) American Heart Association : PALS Provider Manual, Chapt.4 Airway, ventilation, and management of  respiratory distress and failure. 2002, pp81-126