パネルディスカッション/Panel Discussion

小児への気管挿管

静岡県立こども病院 麻酔科
堀本 洋

Tracheal Intubation for Infants and Children

Yoh Horimoto
Department of Anesthesia, Shizuoka Children痴 Hospital



気管挿管の適応

 成人での一般的な挿管適応に加え、6ヶ月未満児ではマスクによる気道確保の困難さからくる腹部膨満の可能性 から短時間手術症例でも多くの症例で適応となる。しかし6ヶ月を過ぎると麻酔中の絶対的気管挿管適応は減少し、 麻酔科医個人の力量によっても異なるが、気管挿管によって受けるメリットと挿管操作に伴う合併症と秤にかける べきである。

気管挿管に伴う、リスク、合併症

 特に自発呼吸時には呼吸抵抗が上昇するなどの問題があり、乳幼児では気管挿管後も調節呼吸などで対処する必 要がある。また、挿管、抜管時に発症する可能性のある喉頭痙攣、歯牙の損傷、喉頭への損傷、片肺挿管、食道内 挿管などがリスクとして挙げられる。

小児の気管挿管時に使用するブレードは直型?曲型?

 絶対的な区分けはないと考えている。乳幼児の喉頭蓋は成人とは異なり、縦に細長く、曲型ブレードでは喉頭の 全容を把握できない場合があり、個人的には小学校低学年までは直型ブレードを使用することが多い。しかし高学 年では下顎も強く、開口も十分になることから、曲型ブレードの方が容易になる。成人を対象とする方がずっと多 い麻酔科医は幼児であっても曲型の方を好む傾向にあり強制するものではないが、喉頭鏡の種類に得意、不得意を 作らないように指導している。

挿管時の頭位は?

 口腔、咽頭、喉頭の軸を一致させるために頸部は伸展させ、いわゆる sniffing positionをとる。ただし乳児の頭部は身体の大きさに比べてかなり大きいので、安定化する目的で使用する頭部の下に置く円座などの枕は薄い方 がよい。

気管チューブ

 適正チューブの選択方法についての公式は教科書によく記載されている。しかし小児には年齢に対して体重がか なり少ない症例がある。公式ではかなり太いチューブが計算され、「果たしてこんな太いチューブでよいのだろう か?」と迷うが、結果的にやはり年齢相応のことが多い。しかしその際に注意しなければならないのは、口唇まで の深さが気管チューブ内径の3倍であるという公式から算段すると、片肺挿管になるほど深く挿入されてしまうこ とである。喉頭の全容を把握し、喉頭にどれだけ気管チューブが挿入されているかを直視下で必ず確認するべきで ある。

 カフ付きの気管チューブは原則として小学校高学年からとされているが、最近乳児の腹腔鏡手術時にはチューブ 周囲からの漏れを防ぐ目的でカフ付き細径気管チューブの使用が各施設から報告されている。しかしカフは亜酸化 窒素によって内圧が6倍にも上昇するとも報告されており、内圧をモニターする、時々カフ量を調節する、亜酸化

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窒素の代わりに生理食塩水を用いるなどの工夫をすべきである。

挿管困難

 挿管困難症例は成人に比べて遭遇する機会は多いと思われ、術前患児の下顎の状態、開口制限状況などをよく把 握しておくべきで、顔面に奇形が存在する場合に挿管困難に遭遇する可能性が高いように思われる。

 先天性疾患として、ピエールロバン、クルーゾン、アペール、トリチャーコリンズ、ゴールデンハー症候群など 形態的に下顎が未発達、あるいは後退している症例。またムコ多糖体が口腔咽頭、舌、喉頭蓋、気管壁などに沈着 することと頸が短いことも含め挿管困難の最たるムコ多糖体症、特に Hurler症候群などが挙げられる。

 腫瘤が原因で挿管困難が予想される症例として、口腔内体積を縮小させ、喉頭の位置が変位するような cystic hygromaや、挿管の際に舌のコントロールが困難な舌血管腫、舌リンパ管腫などが挙げられる。

挿管困難症例への対処法

 いろいろな報告があるが、下顎後退症例ではラリンジアルマスク挿入後のファイバーによる気管挿管が標準化し つつあると思われる。他にマスク換気しながらファイバー挿管を可能とするマスクも報告されている。またトリ チャーコリンズ症候群でbullard喉頭鏡を用い、容易に挿管できた、との報告も見られるが、いずれも私たちの経 験はない。