肝臓外科

<肝移植> <胆道外科> <膵臓外科> <生体肝移植基準>

<膵腸吻合PWST> <重症急性膵炎>  <慢性膵炎>

肝臓外科について

肝臓外科に関する問い合わせ

    


関連ウェブサイト:肝癌診療ガイドライン日本肝癌研究会日本肝臓学会


<目次> I.肝臓の解剖,II. 肝癌 (1) 肝癌の分類,(2) 肝癌の特徴,(3) 肝障害度の評価と肝癌の進行度,(4) 肝癌の治療法,(5) 肝癌の治療成績,(6) 肝癌に対する肝移植

I. 肝臓の解剖 

 成人の肝重量は1000~1500gですが,肝臓の肝血流と胆道系の解剖を図に示します.肝臓に流入する血流は,肝動脈(酸素をたくさ

ん含んだ動脈血)と門脈(小腸から吸収された様々な栄養素を含んだ静脈血)の2つ(これを二重血行支配といいます)からなり,これが肝臓内の毛細血管(肝類洞)に分布したのち,肝静脈(右,中,左肝静脈)となって下大静脈に注ぎ,右心房へと繋がります.肝臓は蛋白質,糖質,脂質の合成・貯蔵などの大切な機能のほか,胆汁酸を合成し胆汁として胆管内に分泌し,十二指腸へと排出しています.この胆汁が流れる臓器を胆道系(肝内胆管,肝外胆管,胆嚢)とよびます.

 肝臓は外科解剖学的には,大きく4つの区域に分けることができます(図). 外側区域,内側区域,前区域,後区域の4区域です.前区域と後区域をあわせて肝右葉,外側区域と内側区域をあわせて肝左葉と呼びます.肝右葉が約60%,左葉が約40%を占めます.

II. 肝癌 

(1)肝癌の分類

 肝臓癌(原発性肝癌)は,肝細胞癌と胆管細胞癌(肝内胆管癌)で95%を占めます.残りの5%には,小児の肝癌である肝細胞芽腫,成人での肝細胞・胆管細胞混合癌,未分化癌,胆管嚢胞腺癌,カルチノイド腫瘍などがあります.成人で 

肝臓癌の大部分(90%)は肝細胞癌 (以下,肝細胞癌を肝癌と表記).我が国の男性の癌による死亡数では、1位の胃癌、2位の肺癌に次いで第3位が肝癌で,女性での発生率は男性の1/5です.肝細胞癌の発症年齢の平均は、およそ55歳です


(2)肝癌の特徴

 肝癌の大部分はウイルス性慢性肝炎・肝硬変を基盤として発生します.ウイルス性肝炎としてはC型が75%,B型が15%を占めます.従って,他の癌(胃癌,大腸癌,膵癌など)と異なり,肝癌になる高度危険群が存在しますので,C型・B型肝炎の方は定期的な肝臓検査(血液検査,腹部エコー,CTなど)を受ける必要があり,これを行うことにより早期発見が可能となります.

 ウイルス感染が肝癌の原因であることから,癌の発生は多中心性(肝臓のどの部位からでも発生し,多発すること)になります.従って,同時に複数個の腫瘍(癌)が発生する場合や,最初は単発(一個)であり,肝切除で除去できても,一定の期間をおいてあらたな癌が残肝(残存する肝臓)に発生します.

 肝癌はウイルス性慢性肝炎・肝硬変を基盤として発生することから,肝癌の患者さんは肝機能障害(慢性肝炎,肝硬変)と肝癌という2つの病気をもっていることになります.肝癌の患者さんを治療する場合には,腫瘍(癌)の進行度(大きさ,個数)と肝障害の程度(肝機能検査,黄疸や腹水の有無)の2つことを考慮して治療法を選択する必要があります


(3)肝障害度の評価と肝癌の進行度

 肝機能障害の程度(肝障害度)を評価する方法には,Child-Pugh分類と日本肝癌研究会の分類による肝障害度分類があります.国際的にはChild-Pugh分類が広く用いられており,脳症(肝性脳症),腹水,T-Bil(総ビリルビン値), Alb (血清アルブミン値),PT活性値を1, 2, 3点と点数をつけ,その総和からChild-Pugh A(5~6点),Child-Pugh B(7~9点),Child-Pugh C(10~15点)に分類します.

 肝癌の進行度分類には,UICC(国際対がん連合)による分類と日本肝癌研究会による分類がありますが,現在,国際的に広く普及しているのがミラノ基準(Milan criteria)です.これは肝硬変合併肝癌に対する脳死肝移植の成績から導かれた分類です.腫瘍(癌)が単発で5cm以下か,多発で3個以下で3cm以下の場合をミラノ基準に合致するといいます.ミラノ基準合致の患者さんに肝移植を行った場合は,ミラノ基準を逸脱した患者さんに比べて,手術成績(生存率)が有意に良好です.この基準は,当初は肝癌の移植適応を決めるために用いられていましたが,最近では肝癌の治療方針を決める上で広く利用されています.


(4)肝癌の治療法

 肝癌の治療には,肝切除術,穿刺療法(ラジオ波焼灼療法RFA),肝動脈塞栓術,肝移植などがあります.いずれの治療を選択するは,肝障害度と癌の進行度を考慮して決めますが,また一つの治療法のみで治療が終了することはなく,各治療法を組み合わせて行うことになります(集学的治療).

  肝切除術には肝葉切除(右葉切除や左葉切除),肝区域切除(外側区域,内側区域,前区域,後区域のいずれかを切除),肝部分切除(区域切除以下の小肝切除)などがあります.大きな腫瘍が肝臓の深部にあり大きさ切除(広範囲切除)が必要な場合は肝葉切除が選択されますが,この場合は良好な肝機能が絶対条件です.一方,肝部分切除(小範囲切除)は,肝機能が不良で,腫瘍は1個で小さく,肝表面に近いところに存在する場合に選択されます.

 非手術的治療としては,局所(穿刺)療法があり,なかでもラジオ波焼灼療法(RFA)が近年盛んに施行されており,治療成績は肝切除術に匹敵するものとなっています.RFAの一般的適応は3cm以下で個数は3個以内です.RFAは肝障害度がある程度進行した場合でも可能です.

 肝癌に対する一般的な治療選択基準を図に示します.ミラノ基準内(腫瘍の血管侵襲がない)の場合,Child-Pugh Aでは肝切除,BではRFA,Cでは肝移植が適応となります.ミラノ基準外で血管侵襲がある場合では,TAE(動脈塞栓術),動注化学療法などが適応となります.


 なお当科では,肝癌が小さく(3cm 以下)て肝表面近くに存在し,RFAの適応と成らず,かつ肝機能不良な場合は,低侵襲手術として腹腔鏡下肝部分切除を施行しています。また、最近では、肝外側区域切除や、左葉切除にも腹腔鏡下肝切除を行っています。

 下図に肝細胞癌の治療経過の代表例を示します.肝細胞癌は肝炎やアルコール摂取、脂肪肝炎(NASH)などの慢性炎症が背景となっているために、肝切除やRFAを施行しても肝臓内再発を来すことが多く、次第に肝臓以外の場所にも転移巣を認めるようになります.



(5)肝癌の治療成績

 三重大学附属病院の肝胆膵外科で治療を受けた患者さんの初回肝細胞癌に対する切除例は徐々に増加しており、最近では、C型・B型肝炎の背景がない、非B非C (NBNC)症例の割合が増加しています。2000年1月以後2017年8月までの初発肝細胞癌の肝切除症例270例における、それぞれの5年生存率はC型 (68.9%)、B型 (61.1%)、NBNC (67.6%)です。無再発5年生存率は、それぞれC型 (30.0%)、B型 (34.0%)、NBNC (39.7%)です。また当科では、10cm以上の巨大肝癌や、血管内に腫瘍塞栓を伴ったような高度進行肝癌に対しても積極的に肝切除を行っております。さらに他の肝動脈化学塞栓療法(TACE)やラジオ波焼灼療法(RFA)などの治療と組み合わせた集学的治療で良好な成績を得ております。

 下図は左が累積生存率曲線、右が累積無再発生存率曲線を示します.



(6)肝癌に対する肝移植

  肝癌(肝細胞癌)に対する肝移植は,癌とともにウイルスに冒された病的な肝臓を同時に除去することが可能であることから,理論的には理想的な治療法といえます.しかし,実際には肝移植により新しい正常な肝臓が移植されても,ウイルス(C型肝炎ウイルス)が移植肝に再感染し肝炎が再燃するため,移植後にも抗ウイルス剤の投与が必要に成ります. 

 当院に於ける肝細胞癌に対する生体肝移植の適応基準は,(1)原則として,年令70才以下,(2)遠隔転移・主要脈管浸潤なし,(3)移植以外の治療では局所制御が困難,あるいは肝不全・非代償性肝硬変による生命の危機を回避できない場合,としています.

 日本に於ける肝癌に対する生体肝移植症例を集計した成績(北海道大学:藤堂 省先生,古川博之先生御提供)では.5年生存率(patient survival)はミラノ基準内の337例では77.8%と良好ですが,ミラノ基準外の316例では60.4%です.

 当科における肝細胞癌(HCC)に対する生体肝移植の治療成績です.ミラノ基準内(5cmで単発,または3cmで3個以内)の患者さんの治療成績はミラノ基準外より有意に良好です.

 

 

  最近,腫瘍径10cm以上の巨大肝癌の症例数が増加しているので,その治療成績を示します.

 

 

 


 ©Shuji Isaji 2019