慢性膵炎手術

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慢性膵炎外科治療

 

慢性膵炎に対する外科治療の適応

 慢性膵炎に対する手術適応は, 難治性疼痛の原因となる炎症性腫瘤, 膵管拡張, 膵石症, 膵仮性嚢胞などの膵病変と, それに随伴した十二指腸閉塞, 胆管閉塞など周囲臓器の器質的変化である. また, 病変が膵癌などの悪性疾患と鑑別困難な場合も手術適応となる. 

 慢性膵炎診療ガイドラインには外科的治療の適応についての記載はないが,「外科的治療は内視鏡治療無効な腹痛例に有効か」というクリニカルクエスチョンに対し, 「外科的治療は内視鏡的膵管ステント留置が無効であった症例に対し除痛効果を示す」とのステートメントが記載されている. このことからも外科的治療の対象とされていた膵管拡張と疼痛をもたらす膵石症に対しては, 現在ではESWLや内視鏡的破砕術, 膵管ステント留置といった内科治療が第一選択とされ, 外科治療の位置づけはこれらが無効であった症例や再発例であると考えられている.

 しかし慢性膵炎に対する外科治療は,短期的な疼痛消失や膵石の消失率においては内科治療と差はないものの,症状の再発率については有意に内科治療よりすぐれているとの報告が多い. Farnbacherらは慢性膵炎患者に対する内視鏡的膵管ステント挿入例の長期経過において42%の症例で再治療が必要とされたと報告しており,2次治療は外科的治療が24%, 再内視鏡的治療が18%になされ, 除痛効果, 体重変化, 社会復帰において外科的治療が良好であったとしている.

 内視鏡治療と外科的ドレナージを比較した無作為比較試験[によると長期的な除痛効果では外科治療のほうが良好(内視鏡 vs外科治療 61% vs 86% Dite, 38% vs 80% Cahen)であり,体重増加やQOLにおいても外科治療が良好であったと報告されている(表2). 

 内科的な治療は外科的治療に比べ侵襲や合併症率が少なく,短期的な成績においては遜色ないことから初期治療としては優先される. しかし長期的には再発を繰り返す可能性があり,内視鏡治療の適応は慎重に検討されるべきで, 膵頭部実質の石灰化などステント治療困難例に対しては膵管ステント挿入を行わず手術を考慮すべきとガイドラインにも警告されている. 初期治療の選択のみならず, 適切なタイミングで外科的治療への移行できるよう, 内科と外科がしっかり連携し治療にあたることが重要である. 



慢性膵炎に対する術式とその選択

 慢性膵炎に対する外科治療の方法は画一的なものはないが,Freyは,理想的な手術手技として(1)術後合併症・死亡率が低い,(2)施行が容易である,(3)長期にわたり除痛効果が得られる,(4)総胆管閉塞など慢性膵炎に伴った合併症も是正できる,(5)膵内外分泌機能を長期に渡り増悪させない,の5項目をあげている。手術の最大の目的は痛みを軽減・消失させることであるが,その痛みの原因は膵管および膵組織内圧上昇と,膵周囲知覚神経の障害・変性によると言われている. そのため術式としては①病変部位毎の膵切除術,②狭窄・閉塞によって拡張した膵管の減圧術,③それら2つを兼ね備えたハイブリッド手術に大別できる。

 膵頭部に病変の主座のある慢性膵炎の外科治療は,ハイブリッド手術(Beger手術やFrey手術)と膵頭十二指腸切除に分けられるが,これらの優劣を比較した4つのRCT(無作為比較試験)のメタ分析によると,除痛効果,合併症発生率,死亡率で両者に差は見られなかった. しかし術中出血量,入院日数,体重増加,術後外分泌機能,社会復帰率,QOLのいずれも侵襲の少ないハイブリッド手術が優れていることが示されており,第一選択はハイブリッド手術であると考えられる. 

 さらにBeger手術とFrey手術については長期予後を比較したRCTにおいて除痛効果,QOL,内・外分泌機能に差はなかったとされている. しかし周術期合併症の発生率はFrey手術の方がBeger手術より低かったと報告されており,Frey手術の方がより安全性が高いと考えられる. よって効果が同等であるならば,安全性に優れたFrey手術を第一選択とするべきではないかと考えられる. 


 ©Shuji Isaji 2019