胆道外科

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胆道外科について


    

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<目次> I.胆道の解剖と機能,II. 胆道癌 (1) 分類,(2) 胆道癌の特徴,(3) 胆嚢癌の特徴と治療,(4) 胆管癌の特徴と治療,当科における胆道癌の治療戦略

I. 胆道の解剖と機能 

 胆道とは,肝細胞により作られた胆汁(胆汁酸)が,肝臓の中にある肝内胆管に分泌され,肝臓の外にある肝外胆管に流れ出て,一時的に胆嚢内に胆汁が蓄えられ,最終的に十二指腸乳頭部(Vater乳頭)に排出されるまでの胆管と胆嚢を総称したものです.胆道は,肝内胆管,肝外胆管,胆嚢に分けらます.肝外胆管のことを一般に胆管と呼び,肝臓側から十二指腸側に向かって順に左右肝管,総肝管,総胆管,十二指腸(Vater)乳頭と呼びます.胆嚢は胆嚢底部,体部,頚部および胆嚢管からなり,胆嚢管と総肝管,総胆管が合流する個所を三管合流部と呼びます.肝臓から分泌される胆汁を肝臓胆汁といいます.肝臓胆汁は肝管をへて,一時的に胆嚢に貯えられ,ここで4~10倍に濃縮されます.これを胆嚢胆汁といいます.

 

 十二指腸に脂性の食事や酸性の粥などがはいると,十二指腸璧内にコレシストキニンという消化管ホルモンが分泌され,胆汁の排泄を促進さます.胆汁には,その中の胆汁酸塩によって,膵管から分泌される膵酵素の作用を助けて脂肪の消化・吸収を間接的に促進する働きがあります.胆汁は常時肝細胞で生成されています.肝細胞を刺激して胆汁の生産を亢進させることを利胆作用といいますが,胆汁自身がもっとも強い利胆作用を持っています.


II. 胆道癌

(1)分類

 胆道癌は,癌の発生部位により,肝内胆管癌,

(肝外)胆管癌,胆嚢癌,十二指腸乳頭部癌と呼ばれますが,肝内胆管癌は胆管細胞癌とも呼び,原発性肝癌として取り扱われます(原発性肝癌取扱い規約).従って,一般に胆道癌といえば,肝外胆道系から発生した癌(胆嚢癌,胆管癌,乳頭部癌)を指します.


(2)胆道癌の特徴

 胆道は、からだの中では小さな臓器ですが,ちょうど肝臓と膵臓の間に位置しており,また,肝動脈や門脈などの主要血管に近接しています.したがって,胆嚢や胆管に癌が発生すると,こうした重要臓器に容易に浸潤します.さらに,胆道はきわめてリンパ組織の豊富な臓器なため,胆道周囲のみならず遠方のリンパ節に広範に転移をきたす特徴があります.したがって,胆道癌では肝切除(hepatectomy)、膵頭十二指腸切除(pancreatoduodenectomy)、広範リンパ節郭清(LN dissection)、さらには肝動脈・門脈合併切除などの高度な手術手技が必要で,これが切除の難しい大きな要因となっています.


 胆道癌の代表的な症状は閉塞性黄疸です.これは胆道が癌によって閉塞し,肝臓でつくられた胆汁が血中に逆流することによって起こります.皮膚の色が黄色いとか,尿が濃い,あるいは便の色が白い(腸内に胆汁が流れないため)といった症状は黄疸によるものです.

 閉塞性黄疸は体の諸臓器にさまざまな障害をおよぼしますから,手術に先立って,黄疸を下げる処置(減黄)が必要となります.減黄処置(treatment of obstructive jaundice)には,図に示すように、内視鏡を十二指腸まで挿入して十二指腸乳頭から肝内胆管までドレナージチューブを挿入する方法(ENBD:内視鏡的経鼻胆管ドレナージ,ERBD:内視鏡的逆行性胆道ドレナージ)、これを内視鏡下経乳頭的胆道ドレナージといいますが、その他に,局所麻酔下に皮膚から肝臓を通して肝内胆管や胆嚢内に細いチューブを挿入する方法(PTBD: 経皮経肝胆道ドレナージ、PTGBD: 経皮経肝胆嚢ドレナージ)があります。以前はPTBDが主流でしたが、内視鏡下経乳頭的胆道ドレナージの方が患者さんへの負担が少ないことから,当科では消化器・肝臓内科のご協力により,胆道ドレナージの第1選択は経乳頭的胆道ドレナージとしています.


 このように胆道癌では,手術のみならず,術前の減黄処置や診断にも独特のテクニックが必要であり,専門施設の受診が推奨されます.


(3)胆嚢癌の特徴と治療

 わが国では60歳代に最も多く,男女比は1:2から1:3と女性に多い癌です.胆嚢癌は,高い確率で胆石を合併し,その頻度は60%前後です.胆嚢癌と胆石の合併率が高いことから,胆石による何らかの影響が発癌に関与すると考えられています.しかし,胆嚢癌の患者さんの胆石保有率は高いが、逆に胆嚢結石(胆石)を保有する患者さん(無症状と有症状例を含む)で胆嚢癌ができる確率は5%未満です.したがって、胆石そのものよりも胆石症(有症状例)による胆汁の変化や胆嚢の炎症が発癌に関与しているといわれます.

 超音波検査(US)の普及で、胆嚢に腫瘍が発見される機会が増加しています.胆嚢の腫瘍には悪性腫瘍である胆嚢癌以外に腺腫や各種のポリープなどの良性腫瘍が数多くありますので,胆嚢腫瘍をただちに胆嚢癌と考える必要はないですが、専門医による確実な診断を受けることが大切です.胆嚢隆起性病変(ポリープ)には,癌,腺腫(良性腫瘍),コレステロールポリープ(良性疾患)などがありますが,第21回日本胆道研究会による統計から,ポリープの大きさと癌の頻度をみると,1~5mmでは4.6%, 6~10mmでは9.3%,11~15mmでは24.1%,15~20mmでは61.2%と,11 mm以上では癌の割合が高頻度となります.当科では,超音波(US)所見とポリープの大きさを手術適応を決定するうえで重視しており,これに精密検査として超音波内視鏡(EUS)を含めた上図のような方針で、胆嚢ポリープを取り扱っています.

 胆嚢癌の治療は外科治療が主流です.癌の深達度(癌が胆嚢壁内留まっているか,壁外に浸潤しているか)別の切除術後生存率を検討した成績と示します.深達度が胆嚢粘膜(m),固有筋層(mp)の患者さんの5年生存率は100%ですが,深達度が漿膜下層(ss),漿膜外・他臓器浸潤(se, si)と進行するにつれ,生存率は著しく不良となります.したがって,胆嚢癌では術前に様々な画像検査により,癌浸潤の程度を診断し,適切な術式を選択することが重要です.

 

 胆嚢癌の手術術式を図に示します。深達度がm, mpでは単純胆摘,ss癌では肝浸潤はないが,肝床部のss層を完全に切除するため,胆嚢周囲の肝実質(厚さ2cm程度)を含めた切除,すなわち,肝床(胆嚢床)切除が必要となります。肝床切除+肝十二指腸間膜内リンパ節郭清は拡大胆嚢摘出術(拡大胆摘)と称され,ss胆嚢癌の基本術式と位置づけられています.なお,ss胆嚢癌に対し,胆嚢静脈の肝への還流域を考慮し,前下内下区域(S4a,S5) 切除が必要との意見や,肝十二指腸間膜の徹底郭清を図って胆管切除を併施すべきとの意見もあり,未だコンセンサスは得られていません.se, siの場合は肝右葉切除〜右三区域切除が必要になります.


(4)胆管癌の特徴と治療

 2018年のがん統計予測によると(国立がんセンターがん情報サービス)、がん罹患数予測は胆嚢・胆管のがんが22,700人で,がん死亡数予測は18,600人とされています

 胆管癌は癌の発生部位により肝門部領域胆管癌,遠位胆管癌に分類されます.胆管癌の治療は,胆嚢癌と同様に外科的切除が根治を得る唯一の方法です.切除術式は,癌の部位により異なり,肝臓側に近くなれば胆管切除に肝切除を追加する必要があり,十二指腸側に比較なれば膵頭十二指腸切除が必要になります.さらに胆管には肝動脈,門脈が近接していますので,しばしば肝動脈や門脈の合併切除が必要になります.


 当科における胆道癌切除後の生存曲線を示します.5年・10年生存率は,胆管癌 33.0%・24.9%,胆嚢癌24.1%・21.4%であり,胆道癌は膵癌と同様に難治性癌の代表といえます.



 胆道癌のなかでも、肝門部領域胆管癌は,もっとも治療に難渋する癌です.なぜならば,肝門部には肝動脈(右、左),門脈という肝臓を養う重要な血管があり、たとえ小さな癌であっても、これら重要血管が近接しているため,これを確実に取り切るには,門脈や動脈を含めた肝切除術が必要になることが多いからです.肝門部胆管癌は,さらに胆管壁に沿った癌浸潤が左右の肝内胆管にまで及ぶことが少なくなく、右側肝内胆管に癌が進展してれば右葉切除や右三区域切除(肝臓の右葉に内側区域を切除)を,左側に進展していれば左葉切除や左三区域切除(左葉に右前区域を切除)を行います.


<当科に於ける胆道癌の治療戦略>

 当科では2002年3月から生体移植を開始しましたが,肝移植手術では血管の切除・吻合が重要な手術手技となることから,この移植手術手技を胆道癌の手術手技に積極的に応用しています.

 進行胆道癌に対する血管の切除・再建を行った頻度を比較しますと,2003年6月までは159例中17例,10.7%にすぎませんでしたが,2003年7月以降は72例中24例,33.3%と約3倍に増加しています.血管合併切除・再建を行った24例(進行度が高い癌といえます)の術式と根治度をみますと,治癒切除率は87.5%と大変良好となっています.これらの治療成績を,血管合併切除・再建をしなかった48例と比較しても,遜色のない成績が得られています.


  当科では,癌の根治性を目指して切除後の組織学的癌遺残のない手術を達成するための肝門部胆管癌に対する新たな治療戦略を2006年に立案し,積極的な治療を開始しています.(1)肝門部の癌に直接触れない「肝門部no-touchによる拡大右葉切除+門脈合併切除」,(2)術前化学放射線療法(NCRT)の導入,(3)胆道癌に対する新規抗癌剤ジェムシタビン(GEM)の術後補助投与,からなる治療法です.2006年12月〜2008年10月までに,局所進行胆道癌9例(肝門部胆管癌6例,肝内胆管癌2例,胆嚢癌1例)にNCRTを施行していますが,7例が切除でき,うち6例にR0手術(組織学的に癌依存のない切除術)が達成されました.7例について,NCRTの組織学的効果をみますと,2例が生存癌細胞なしであり,5例は90%の癌細胞が死滅していました.NCRTの組織学的効果は大変すばらしいものですが,肝臓や肝動脈に放射線が照射されるために,術後に慢性肝障害や仮性動脈瘤などの重篤な合併症を併発することが多いという欠点が明らかになりました.

 そこで2009年1月からは.大血管浸潤を伴う進行胆道癌に対するNCRTの治療計画(プロトコール)を変更しました.放射線照射を45Gyから36Gyに減量するとともに,残存肝側への放射線照射を最小限にする照射法に変更しました.現在までに8 例に施行しましたが、効果が不十分でした.そこで2009年以降はジェムザール+TS1による術前化学療法を開始しています.


 2011年4月からは肝門部領域胆管癌に対する新たな治療計画をたてて実行しています.膵癌に準じて肝門部領域胆管癌の切除可能性分類を導入し,切除可能(R: resectable),切除可能境界(BR: borderline resectable),局所進行切除不能(UR: locally advanced unresectable)に分類し治療法を選択しています.


さらに肝門部領域胆管癌に対する新たな術式として,肝門部胆管に真っ先にアプローチするTranshepatic Hilar Approach (THA)法を開発し施行しています.


 THA法により肝切除を施行した肝門部領域胆管癌の治療成績を示します(January 2011 and December 2015: Kuriyama N, Isaji S, Tanemura A, Iizawa Y, Kato H, Murata Y, Azumi Y,Kishiwada M, Mizuno S, Usui M, Sakurai H. Transhepatic Hilar Approach for Perihilar Cholangiocarcinoma: Significance of Early Judgment of Resectability and Safe Vascular Reconstruction. J Gastrointest Surg. 2017 Mar;21(3):590-599).図aは全症例の累積生存率、図bはがん遺残の有無(R0, R1,2)別の累積生存率です。




 ©Shuji Isaji 2019