低侵襲肝切除術(腹腔鏡下肝切除術、ロボット支援下肝切除術)

はじめに

肝疾患に対する腹腔鏡下肝切除術は本邦では2010年4月に腹腔鏡下での肝部分切除および肝外側区域切除が保険収載されました。
そして、2016年4月には、胆道あるいは血行の再建を行わないすべての腹腔鏡下肝切除術が保険収載され、近年、急速に普及してきております。
しかし、肝切除は開腹手術でも高難度の手術であり、腹腔鏡ではさらに難易度が高くなります。そのため、胃や大腸の手術では腹腔鏡下手術が一般的に行われる現在でも肝臓領域では限られた施設でしか行われていないのが現状です。
また、腹腔鏡下肝切除術の適応は限定されており、患者様の病態に応じて開腹手術が適しているのか、腹腔鏡下肝切除術が最適な治療であるのかを慎重に判断して選択する必要があります。
当院は保険の適応における手術施設基準を満たしており、すべての腹腔鏡下肝切除術の実施が認められておりますので、腹腔鏡下で肝切除術を行う利点と対象となる疾患、当科の治療成績について現状を概説したいと思います。

腹腔鏡下で肝切除術を行うメリット

肝切除を腹腔鏡手術で行うことの最も大きな利点は3つあります。
ひとつは開腹手術と比較して傷が小さくてすみ、整容性や術後の疼痛が軽減されます。肝臓は右の肋骨の奥深いところに納まっているため、開腹手術では体壁を大きく切開する必要がありますが、腹腔鏡手術ではいくつかの小さな穴と肝臓を取り出すための最低限の切開で行うことが可能になります。
もうひとつは気腹圧による出血量の減少です。腹腔鏡手術では、お腹の中に二酸化炭素を入れて、お腹を膨らませ、8−10mmHg程度の圧をかけながら手術を行いますが、この気腹圧によって、肝臓の切離面からの(圧の低い肝静脈からの)出血量が少なくなります。
また、通常の開腹手術では腹側から見下ろして手術を行いますが、腹腔鏡では通常の開腹手術では見ることができない背側から覗き込むような視野を得ることができ、さらに腹腔鏡による拡大視効果によって、より繊細・緻密な手術手技を行うことが可能になります。

対象となる肝疾患

腹腔鏡下肝切除が必要な疾患(病気)としてもっとも多いのは、肝臓内で発生する原発性肝がん(肝細胞がん)で、次に多いのは他の臓器で発生したがんが肝臓に転移した転移性肝がんです。
現時点(2019年11月)では胆管切除を伴う肝切除は保険適応として認められていません。したがって、胆管切除が必要となる肝門部胆管癌は腹腔鏡手術の適応外となり、腫瘍径が大きい場合や腫瘍が肝臓内の大きな血管や胆管に近接する場合についても、腹腔鏡手術の適応については慎重に判断する必要があります。

当科の手術成績

当科は2009年3月から腹腔鏡下肝切除を導入し、内視鏡外科技術認定医、肝胆膵外科高度技能専門医からなる手術チームを編成し、手術手技の定型化をはかり、手術手技を向上させてきております。
導入から現在まで(2009年3月〜2023年12月)に261例の手術件数(部分切除:157例、外側区域切除術:38例、2区域切除:32例(左肝切除:22例、右肝切除:10例)、区域切除:11例、亜区域切除:23例)を有します。また、2022年からはロボット支援下肝切除術を導入し、2023年12月までに10例に実施しております。
過去の私たちの経験症例では手術関連死亡(術後90日を超える症例も含めて)はございません。当科では国内トップクラスの肝臓外科技術と経験を駆使して、安全かつ確実な腹腔鏡下肝切除術を提供します。

腹腔鏡下肝切除術術式と手術件数
2009.3〜2023.12 / 261例

腹腔鏡下肝切除術年次手術件数
三重大学医学部付属病院肝胆膵・移植外科
2011〜2023.12

腹腔鏡下肝切除の実際