• 三重大学医学部附属病院 感染対策チーム

    感染症予防法で、医師からの届出対象となる感染症のリストと届け出基準

    4類感染症で全例報告のもの
    後天性免疫不全症候群


    《 定 義 》

    レトロウイルスの一種であるヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus; HIV)の感染によって免不全が生じ、日和見感染症や悪性腫瘍が合併した状態。 感染からエイズ発症まで通常約10年の無症候期がある。 感染症新法における発生動向調査においては、HIV感染症を診断した時点から報告することが求められている。

    《 臨 床 的 特 徴 》

    HIVに感染した後、CD4陽性リンパ球数が減少し、無症候性の時期(無治療で約10年)を経て、生体が高度の免疫不全症に陥り、日和見感染症や悪性腫瘍が生じてくる。 (サーベイランスのためのHIV感染症/AIDS診断基準(厚生省エイズ動向委員会、1999)抜粋)

    《 報告のための基準 》

    (サーベイランスのためのHIV感染症/AIDS診断基準(厚生省エイズ動向委員会、1999)抜粋)
    1. HIV感染症の診断
      1. HIVの抗体スクリーニング検査法(酵素抗体法(ELISA)、粒子凝集法(PA)、免疫クロマトグラフィー法(IC)等)の結果が陽性であって、以下のいずれかが陽性の場合にHIV感染症と診断する。
        1. 抗体確認検査(Western Blot法、蛍光抗体法(IFA)等)
        2. HIV抗原検査、ウイルス分離及び核酸診断法(PCR等)等の病原体に関する検査(以下、「HIV病原検査」という。)
      2. ただし、周産期に母親がHIVに感染していたと考えられる生後18か月未満の児の場合は少なくともHIVの抗体スクリーニング法が陽性であり、以下のいずれかを満たす場合にHIV感染症と診断する。
        1. HIV病原検査が陽性
        2. 血清免疫グロブリンの高値に加え、リンパ球数の減少、CD4陽性Tリンパ球数の減少、CD4陽性Tリンパ球数/CD8陽性Tリンパ球数比の減少という免疫学的検査所見のいずれかを有する

    2. AIDSの診断

      HIV感染症の診断基準を満たし、下記の指標疾患(Indicator Disease)の1つ以上が明らかに認められる場合にAIDSと診断する。

      • 指標疾患(Indicator Disease)
        1. 真菌症
          1. カンジダ症(食道、気管、気管支、肺)
          2. クリプトコッカス症(肺以外)
          3. コクシジオイデス症
            1. 全身に播種したもの 
            2. 肺、頚部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの
          4. ヒストプラズマ症
            1. 全身に播種したもの 
            2. 肺、頚部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの
          5. カリニ肺炎(注)原虫という説もある
        2. 原虫症
          1. トキソプラズマ脳症(生後1か月以後)
          2. クリプトスポリジウム症(1か月以上続く下痢を伴ったもの)
          3. イソスポラ症(1か月以上続く下痢を伴ったもの)
        3. 細菌感染症
          1. 化膿性細菌感染症(13歳未満で、ヘモフィルス、連鎖球菌等の化膿性細菌により以下のいずれかが2年以内に、二つ以上多発あるいは繰り返して起こったもの) @敗血症 A肺炎 B髄膜炎 C骨関節炎 D中耳・皮膚粘膜以外の部位や深在臓器の膿瘍
          2. サルモネラ菌血症(再発を繰り返すもので、チフス菌によるものを除く)
          3. 活動性結核(肺結核又は肺外結核)
          4. 非定型抗酸菌症
            1. 全身に播種したもの
            2. 肺、皮膚、頚部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの
        4. ウイルス感染症
          1. サイトメガロウイルス感染症(生後1か月以後で、肝、脾、リンパ節以外)
          2. 単純ヘルペスウイルス感染症
            1. 1か月以上持続する粘膜、皮膚の潰瘍を呈するもの
            2. 生後1か月以後で気管支炎、肺炎、食道炎を併発するもの
          3. 進行性多巣性白質脳症
        5. 腫瘍
          1. カポジ肉腫
          2. 原発性脳リンパ腫
          3. 非ホジキンリンパ腫 LSG分類により 
            1. 大細胞型 免疫芽球型  
            2. Burkitt型
          4. 浸潤性子宮頚癌
        6. その他
          1. 反復性肺炎
          2. リンパ性間質性肺炎/肺リンパ過形成:LIP/PLH complex(13歳未満)
          3. HIV脳症(痴呆又は亜急性脳炎)
          4. HIV消耗性症候群(全身衰弱又はスリム病)
        ※ C11活動性結核のうち肺結核及びE19浸潤性子宮頚癌については、HIVによる免疫不全を示唆する症状または所見がみられる場合に限る。

    《届出について》

    届出の対象 患者・無症状病原体保有者
    届出の時期 7日以内
    届出事項 氏名・性別・病名・症状・診断方法・初診年月日・診断年月日・推定感染年月日・感染原因・感染経路・感染地域

    《備 考》

    報告のための基準は、サーベイランスのための診断基準であり、治療の開始等の指標となるものではない。近年の治療の進歩により、一度指標疾患(Indicator Disease)が認められた後、治療によって軽快する場合もあるが、発生動向調査上は、報告し直す必要はない。しかしながら、病状に変化が生じた場合(無症候性キャリア→AIDS、AIDS→死亡等)には、必ず届け出ることが、サーベイランス上重要である。
    なお、報告票上の記載は、
    1. 無症候性キャリアとは、HIV感染症の診断の基準を満たし、症状のないもの
    2. AIDSとは、AIDSの診断の基準を満たすもの
    3. その他とは、HIV感染症の診断の基準を満たすが、AIDSの診断の基準を満たさない何らかの症状があるものを指すことになる。

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