Infection Control News第1号 2000.3.1 発行

三重大学医学部附属病院 感染対策チーム(ICT)
◆ICTレポート ◆◆
ICT(Infection Control Team)発足にあたり
 1897年(明治30年)の伝染病予防法の制定以来約100年を経て,感染症対策が抜本的に見直しをされ,「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下,「感染症新法」)が,平成11年4月1日に施行されました。この感染症新法のポイントは,従来の集団の感染予防に重点を置いた考え方から,個々の国民の予防及び良質かつ適切な医療の積み重ねによる社会全体の感染症の予防推進に基本的考え方を転換していくこととしています。従って当院でも感染症新法施行に合わせてMRSA・ウイルス肝炎・HIVのそれぞれの対策委員会を発展的に解消して,全ての感染症に対応する感染対策チーム(ICT)として,平成11年4月1日に新発足致しました。今後期待されるICTとして一層の院内感染防止に取り組み,その活動状況を逐次お知らせするためICTニュースを発行することになりました。職員の皆様のご協力をお願い致します。ICTの構成メンバーなどは次回に紹介します。  

  ICTのうごき
(1) 走る感染症と呼ばれるインフルエンザは,毎年11月下旬〜12月上旬頃に発生が始 まります。三重県内の病院でも昨年大流行し,死亡例も報告されました。さらに新型のインフルエンザも流行したことから,当院でも院内感染対策としてワクチン接種の必要性が議論されました。インフルエンザは全身症状の強い疾患で,合併症も起こしやすく,特に高齢者には重症化阻止を目的としたワクチン接種が推奨されていることから,昨年末に職員・患者の希望者にワクチンの接種を行いました。今回,その予防効果を把握することにより,今後のワクチン接種への貴重なデータに供するために,アンケート調査を実施することになりました。職員の皆様のご協力をお願い致します。 
(2) 結核の新規患者が38年振りに増加し,最近では学校や医療機関などで集団感染が多発するなど大きな問題となっています。厚生省は昨年7月26日「結核緊急事態宣言」を行いました。結核の感染を防止するためには,結核に関する知識を深める必要があります。そこで,ICTでは結核に関する職員の皆様からの疑問にお答えするQ&A方式でガイドラインを作成中です。院内感染防止にお役立てください。  

  ◆感染症発生動向調査から ◆◆
 当院の2月におけるMRSA感染患者数は12名で,内10人が新規患者でありました。前月比で新規患者は7名増加しています。ペニシリン耐性肺炎球菌は1名でした。(詳細は感染対策チーム・ICTにお問い合わせ下さい。総務課:内線5709)

◆ 感染症レクチャー◆◆
 Pseudomonas cepacia(シュードモナス・セパシア):抵抗力の減弱した易感染患者に発症し,院内感染の原因菌として重視されている。本菌は一極に数本の鞭毛を有するブドウ糖非発酵性グラム陰性桿菌である。臨床由来株はほとんどが無色株であるが,まれに硫黄黄色や紫色の色素を産生する株もみられる。P.cepaciaの“cepa”はタマネギの意で,本菌種が腐敗したタマネギから多く分離されたことから,このように命名された。
 本菌は抗菌薬に多剤耐性株が多く,ABPC・CEZ・CMZ・CTX・GM・TOBなどに耐性であるが,PIPC・IPM・CAZ・MINO・STには感受性株が比較的多い。わが国で注目されはじめたのは,1970年代に入ってからである。本菌種はクロルヘキシジン溶液中で生息できることから,消毒液の汚染菌として広く知られるようになった。本菌が多く検出される施設では消毒薬のつぎ足し使用の禁止などを徹底し,診療に用いている水や消毒液(クロルヘキシジン溶液など)の細菌検査を行い,細菌の存在の有無を確認する必要がある。  
 先般,愛知県における感染事例(小牧市民病院・入院患者48人が感染)は,薬瓶から感染した可能性が高いといわれている。これは本菌が抗菌薬に多剤耐性で消毒液にも強いためであり,特に易感染患者に使用する消毒液や医療器具は細菌汚染を起こさないように十分注意しなければならない。  

                  ◆ 感染対策Q&A◆◆
Q:臨床的に感染症なのか,単なる保菌だけなのか,判断に迷うことがあります。診断の指標や手順などを教えてください。
A:菌が検出されても必ずしも感染症とはいえません。しかし,何かのはずみで特定の菌が増殖したり,異所性に菌検出がみられると問題です。MRSAを例にとってお答えします。・ブドウ球菌は通性嫌気性菌であり,閉鎖した条件下で増殖し病原性を発揮しやすく,その基本型は化膿症です。・感染症であれば,感染巣または感染症名が必ずあると思います。菌量が多く,純培養的に病巣から分離される場合は当然起炎菌の可能性が高いと考えられます。・発症した場合は,発熱,局所の疼痛,白血球増多,CRP値の上昇などの炎症所見が通例みられます。検体からの推定では,例えば喀痰が膿性痰で,鏡検所見で好中球による貪食像などが観察されれば病原的意義は高いと思います。尿では菌量よりも膿球の有無を確認することが重要です。・ MRSA感染症は,ほとんどが院内感染であり,最も注意すべき患者は,老人,免疫不全患者,未熟児,広範囲熱傷患者,心臓外科手術患者,胃・腸管切除施行患者などです。その発症にはIVHの施行,挿管による呼吸管理,β−ラクタム系抗生物質の使用などが重要な要因と考えられています。これらは,易感染宿主における菌交代症としての性格が非常に強い感染症であるといってよいと思います。


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三重大学医学部附属病院感染対策チーム
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