Infection Control News 第8号
  2001.8.1 発行
三重大学医学部附属病院 感染対策チーム(ICT)
◆ICTレポート ◆◆  

  1. 「ツベルクリン反応検査」:病院内での結核感染予防対策の一環として,昨年に引き続き,ツベルクリン反応(以下「ツ反」という)検査を今秋実施する予定です。検査対象者は新規採用者全員とそれ以外の「ツ反」検査結果が陰性又は不明の医学部・医学部附属病院職員(非常勤職員及び大学院生を含む)等です(詳細は実施要項を参照下さい)。
  2. 「第2回国立大学医学部附属病院感染対策協議会」 :院内感染防止策について,全国42の国立大学病院で構成する感染対策協議会(議長=武澤 純・名古屋大学医学部教授)の第2回会議が5月10・11の両日, 名古屋国際会議場で開かれ,当ICTから吉村 平,地崎真寿美の2委員が出席。協議会では,
    1. 病院内感染症患者の発生動向に関するサーベイランスの実施
    2. 結核や薬剤耐性菌を含む感染症患者に対する予防・治療・看護ガイドラインの確立
    3. ICT構成員に対する教育・連絡網(ホームページ)の確立
    4. 消毒薬使用,施設衛生管理に関するガイドラインの確立
    5. 医療廃棄物に対する管理指針の確立
    6. 針刺し等医療事故に対する実態調査・予防措置・対策指針の確立
    について審議。さらに,協議会の下に
    1. サーベイランス委員会
    2. 感染対策ガイドライン(結核を含む)の策定委員会
    3. 針刺し・血液感染対策委員会
    4. 医療廃棄物処理のガイドライン策定委員会
    5. ICN(D)養成の教育システムの整備とテキストの作成委員会
    などの作業部会も設置。
    また,引き続き行なわれた第1回感染対策担当看護婦研修会に当院のICT,看護部から地崎真寿美,西井惠子,前川八重子の3名が参加。
    1. 専門職としての感染管理
    2. 感染対策担当看護婦の活動とその役割
    3. 薬物血中濃度
    4. IVH管理(科学技術庁のガイドライン)
    5. 抗生物質の適正使用
    6. サーベイランス(総論・考え方)
    7. 検査部サーベイランス・血流感染サーベイランス
    について研修を受けました。
  3. 「血流感染サーベイランス」:国立大学感染協議会サーベイランス部会が中心となり,42の国立大学が一斉に中心静脈カテーテル留置患者を対象に
    1. 血流感染率・中心静脈ライン利用率
    2. 中心静脈カテーテル管理の実態調査,血流感染の危険因子の検討
    3. 起炎菌の同定・薬剤耐性菌の実態調査
    を目的に,『血流感染サーベイランス』を実施することになりました。当院では「第一外科・第二外科・第三内科・NICU・小児科」の5診療科のご協力で,期間は平成13年7月12日〜18日迄の1週間実施。その結果解析は国立大学多施設共同研究として公表される予定です。

◆感染症発生動向調査から ◆◆
  1. 耐性菌情報:当院のMRSA感染患者数(2001年4〜6月)はそれぞれ11・4・10(人)
    で,7・4・8(人)が新規患者です(前月比で新規患者は4月・2人減,5月・3人減,6月・4人増)。ペニシリン耐性肺炎球菌感染患者数(2001年4〜6月)はありません。薬剤耐性緑膿菌感染患者数は(2001年4〜6月)はそれぞれ0・0・1(人)です。
  2. HIV情報:厚生労働省エイズ動向委員会は2001年7月31日,2001年3月26日〜6月24日までの3ヶ月間におけるエイズ患者数は法定報告92件(前回63件),任意報告6件(前回1件),感染者数は144件(前回129件)であったと報告。今回の報告では,
    @ 前回報告と比較して,患者は29件の増,感染者は15件の増でした。感染経路別に見ると,エイズ患者では異性間性的接触によるものが37件,HIV感染者では同性間性的接触のよるものが80件とそれぞれ第一位を占めています。
    A 年齢別では前回同様患者・感染者ともに各年齢層に分布しているものの,患者では30代以上,感染者では20代〜30代が占める割合が高くなっています。性別では,女性は異性間性的接触による感染,男性は異性間・同性間性的接触とも増加傾向にあると言えます。今回の報告では,患者・感染者数ともに増加していますが,特に患者数の増加が目立っています。この傾向が一時的なものであるかどうか,今後の動向に注意が必要と述べています(委員長コメント)。

     三重県のエイズ患者・HIV感染症
    @ 今回の報告受理(2001年3月26日〜6月24日)による患者数は,男性1件(0),女性0件(0),感染者数は,男性2件(0),女性0件(0)。感染原因別では,異性間性的接触2(0),同性間性的接触0(0),母子感染0(0),薬物濫用0(0),不明1(0)。
    A 累積(1989年2月17日〜2001年6月24日)による患者数は男性18(9),女性8(7),感染者数は男性20(4),女性37(32),感染原因別では,異性間性的接触50(26),同性間性的接触2(0),母子感染1(1),薬物濫用1(1),不明29(24)でした

    (カッコ内の数は外国人を示します)。


◆ 感染症レクチャー(8)◆

カテーテル関連感染対策について(1)

《はじめに》

 平成11年度,「カテーテル関連血流感染実態調査」*(342施設の回答)によると,3ヶ月の調査期間中に中心静脈カテーテルが挿入された患者は3.4万人であり,血液培養陽性患者は374人(1.1%),血液培養陽性患者で病院転帰の判明している患者307人のうち,死亡者数は161人,粗死亡率は52%と報告されています。このように我が国での血流感染はリスクが非常に高いことから,臨床の現場ではより安全な輸液療法を実施するための予防対策が強く求められています。本稿では2回にわたり,最新の「血管内留置カテーテル関連感染予防のためのCDCガイドライン」の内容を交えて,輸液ライン管理の実際を主体とした『カテーテル関連感染対策』について紹介します。

参)平成11年度科学技術振興調整費 緊急研究「院内感染防止に関する研究:点滴静脈注射などの衛生管理に関する実態調査報告書」「静脈点滴注射剤などの衛生管理に関する研究」


カテーテル関連感染の定義

A.局所的なカテーテル関連の感染

  • 出口部感染 (Exit-site infection)
    カテーテル出口部の皮膚2cm以内の紅班,有痛性硬結,または化膿が現れる場合。
  • ポケット感染 (Pocket infection)
    完全埋め込み型血管内用具のリザーバーを覆う皮膚の紅班および壊死,またはリザーバーを内蔵する皮下ポケットにおける化膿性浸出が現れる場合。
  • 皮下トンネル感染 (Tunnel infection)
    カテーテルを覆い,挿入部から2cm以上離れた組織の紅班,圧痛,および硬結が現れる場合。
B.全身性のカテーテル関連感染 
  • カテーテル関連血流感染 (Catheter-related bloodstream infection[CR-BSI])
    カテーテルの半定量的または定量的培養と,血流感染の臨床症状を伴い他の感染源が明らかでない患者の血液(できれば末梢の静脈から採血された)から同じ微生物(すなわち,アンチバイオグラムで同一の種)の分離。検査による確認がない場合,血流感染患者からそのカテーテルを抜去した後の解熱はカテーテル関連血流感染の間接的な証拠とみなされる。
  • 注入剤関連血流感染(Infusate-related bloodstream infection)
    注入剤および経皮的に採取された血液培養から同一の微生物が分離され,他に感染源を同定できない場合。

感染の原因
  • 挿入部位の皮膚微生物が皮膚のカテーテル経路に沿って移動する。
  • ハブ(カテーテルと輸液ラインの接続部)の汚染。
  • 離れた感染部位からカテーテルの血行移動。
  • 輸液の汚染。
カテーテル関連感染の原因となる微生物

A.グラム陽性菌
  黄色ブドウ球菌,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,エンテロコッカス属,カンジダ属(ヒトの皮膚に最も頻繁に見られる微生物であることが原因となっている)。
B.グラム陰性菌
  エンテロバクター属,アシネトバクター属,セラチア,シュウドモナス・セパシア(これらの微生物が体内の他の部位からの培養で見つからなかった場合,輸液,多用量バイアル,血圧モニターシステム,消毒剤などの一般的な感染源が考えられる)。

中心静脈ライン管理の実際

1)手洗い
 手洗いを適切に行うことによって,外部からの汚染を防ぎ,感染の危険性を抑制できる。
・ 次の処置前後に手洗いを行う。
カテーテルの挿入。
出口部位のケアおよびドレッシング材の交換。
輸液セットの取り扱い時。

2)カテーテル挿入部位の選択
・ カテーテル挿入部位の選択は,カテーテル関連感染のリスクに影響する。
首は微生物の数が最も多い。
  内頸静脈に挿入したカテーテルの細菌定着率または感染率が,鎖骨下静脈に比べ
  2.7倍と著しく高い報告がある。
鎖骨下静脈に挿入されたカテーテルは内頸静脈または大腿静脈に挿入されたものより感染のリスクが低い。しかし,カテーテル留置に伴う機械的合併症(気胸、血胸など)
は鎖骨下静脈挿入より内頸静脈挿入の方が低い。
挿入部による感染リスクの違いは?
内頸静脈穿刺 > 鎖骨下静脈穿刺 > 末梢静脈穿刺 

3)カテーテル挿入時のバリアプレコーション
 ・カテーテル関連感染のほとんどは,カテーテル挿入時にカテーテル経路に入り込んだ微生物が原因となっている。感染リスクの違いは環境の無菌性(病棟vs 手術室)より,むしろカテーテル挿入の際に用いられるバリアプレコーションの程度に大きく左右される。
中心静脈カテーテルの挿入のために,滅菌ガウン,滅菌手袋,マスク,および大きな滅菌ドレープ(マキシマルバリアプレコーション)を含む無菌テクニックを使用すること。

4)カテーテル留置部位のケア・ドレッシング交換について
  カテーテル刺入部の消毒方法は
・ 刺入部は,2%ヨードチンキ,10%ポピドンヨード,70%アルコール,クロルヘキシ
ジンなどの適切な消毒薬を単独で,もしくは併用して清潔にする。
・ アルコールは10%ポピドンヨードの残存消毒効果をなくしてしまうため,10%ポピドンヨードで消毒した後にアルコールを用いないこと。
・ 適切な消毒薬で皮膚を清潔に消毒後,カテーテル挿入前は挿入部の消毒薬を乾燥させ,
適正な時間(ポピドンヨードは約2分ほど乾燥まで時間が必要)拭き取らずにおき,ドレッシングする際は,必ず皮膚が乾燥した状態にしてから行うこと。
クロルヘキシジンは塗布したあと,乾燥しても皮膚の表面上で何時間も殺菌能力がある。 
・ 中心静脈カテーテルの挿入部位に,抗菌軟膏をルーチンに使用しないこと。
・ ポピドンヨード軟膏を塗布した場合と,塗布しなかった場合ではカテーテル関連感染に
変化がなく,塗布することでドレッシング材が緩む原因となることから,確実に消毒・
乾燥させてからドレッシングを密着させることを優先させるべきである。
ドレッシングの交換頻度は
・ ガーゼやシルーキーポワドレッシング材等を使用する場合
48時間から72時間毎に交換する。
・ 透明フィルムドレッシング材使用の場合
集中治療室(ICU)患者の中心静脈カテーテルは,1週間に2回。
ICU以外の患者の中心静脈カテーテルは,7日まで。
(但しドレッシング材が濡れたり,緩んだり,汚れたら,日数に関係なく交換する)。
  透明フィルムドレッシング材を使用する際の利点
  @刺入部を滅菌したものでカバー。
  A観察できることにより,合併症を早期発見。
  Bカテーテルの固定性が上がる。
Cドレッシング材の交換頻度の減少。

5)輸液セットの交換頻度について
・ 静注用ラインは,72時間毎に交換する。
・ 例外:血液,血液製剤および脂質乳剤の投与に用いられるチューブは点滴開始から
24時間以内に交換する。
・ 感染を制御する目的でライン内フィルターは使用しない。


◆ 感染対策Q&A◆◆

Q:非定型抗酸菌を排菌している患者について,院内感染対策上の注意点を教えて下さい。

A:非定型抗酸菌(定型抗酸菌である結核菌とライ菌を除いた,多種類の抗酸菌群の総称)は結核菌と異なり,法律上あるいは医療上特に他の一般細菌と区別して扱う必要はありません。実際上はM.kansasii,M.aviuumまたはM.intracellulareなど比較的病原性の強いものをどんどん排菌している患者からの感染,および特に免疫力の弱った患者への感染にケースバイケースで注意する必要はありますが,ヒトからヒトへの感染はないと考えられ,院内感染対策上殆ど問題になることはありません(日本臨床検査医会)。


◆INFORMATION ◆◆

  1. 院内感染防止へ初の統一指針…国立大病院協議会:院内感染防止策について全国42の国立大学病院で構成する感染対策協議会(議長=武澤 純・名古屋大医学部教授)がガイドラインをこのほどまとめました。それによると,感染リスクの高い患者の病室では @ ベッド柵,ドアの取っ手,手すりなどを医療用石けんやアルコールで最低一日一回ふく A 患者が退室した病室は洗浄剤で清掃する―などの他,注射針による血液感染や医療廃棄物の処理など多岐にわたっています。防止策はこれまで病院ごとに定めてきており,統一指針は初めて。院内感染では問題視されたMRSAのほか,東京や大阪で多くの死者を出したセラチア菌などの細菌による事例が後を絶たないのが実情。武澤教授は「全国の病院で,同じレベルで院内感染に取り組めるようになるはずだ。今後,ガイドラインを医療現場で確実に実行し,評価していく必要がある」と述べています(2001年5月14日・読売新聞)。

  2. ファルマシアが初のVRE感染症治療薬「ザイボックス」発売:ファルマシアは新規(オキサゾリジノン系)合成抗菌剤「ザイボックス注射液600mg」および「ザイボックス錠600mg」(一般名:リネゾリド)を6月1日から新発売。適応症はバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の1種であるE.faecium菌による感染症(菌血症の併発を含む)で,日本初のVRE感染症治療薬となります。ザイボックスは,細菌の増殖につながる蛋白質の合成を開始の段階で阻害するという,従来の抗生物質とは異なる作用メカニズムを有します。また,錠剤のバイオアベイラビリティは約100%であるため,注射剤から同量の錠剤への切り替え療法が可能です(2001年6月8日・薬事日報)。

◆ OUTBREAK ◆◆

1) 20人が結核に感染(3人が発病・入院)千葉(2001年5月23日・24日:朝日新聞)
2) O157 特養ホームで2人死亡(2001年8月5日:東京読売新聞)
 
 ★ 感染予防の第一歩は手洗いから ★


go to guest pagego to domestic page
三重大学医学部附属病院感染対策チーム
三重県津市江戸橋2-174

E-mail: s-kenko@mo.medic.mie-u.ac.jp

なお、三重大学医学部の公式サーバーは、http://official.medic.mie-u.ac.jpです。