Infection Control News 第9号
  2002.1.20 発行
三重大学医学部附属病院 感染対策チーム(ICT)

◆ICTレポート ◆◆
  1. 「ツベルクリン反応検査」: 医療従事者は結核感染を受けやすいハイリスクグループであるため本学職員の希望者(258名)を対象に,平成13年10月15・16日と29日,の2回にわたりツベルクリン反応(以下,ツ反応)検査を実施しました。ツ反応には「ブースター現象(2回目で陽性になる現象)」があり,2回目の反応をその後の検査に対する対照(ベースラインの反応)として,今回「2段階ツ反応試験」で陰性であった29歳以下の職員にはBCG接種を受けるように勧告を出しました。

  2. 「インフルエンザワクチン接種」:インフルエンザウイルスの最も大きな特徴は「流行を起こす」ことです。今冬も予防対策として教職員の希望者(691名)を対象に,平成13年12月3〜5日,「インフルエンザHAワクチン」の勧奨接種を実施しました。予防接種は発症を完全に防ぐことはできませんが流行を抑制し,重症化や死亡の危険を下げる効果が認められています。また,インフルエンザウイルスのなかで臨床上問題となるのは「A型・B型」ですが,これらに対する抗ウイルス薬の開発が進み,アマンダジンなどのM2イオンチャンネル阻害薬,ノイラミダーゼ(NA)阻害薬などの薬剤が新たに保険適用され,臨床で広く用いられています。しかし,このような新たな薬剤は治療効果が期待できる反面耐性化も指摘されています。まず,大流行に備えた予防が大切です。

  3. 「感染防止対策講演会」:院内感染防止対策の一環として来る2月15日(金)午後5時30分から,医学部臨床第二講義室で静岡県西部浜松医療センター衛生管理室副室長の浦野美恵子先生を講師に『効果的な院内感染対策−血管内留置カテーテルの管理を中心に−』についての講演会を行う予定です。

  4. 「国立大学病院感染対策協議会報告」:平成13年11月20〜21日,第3回国立大学病院感染対策協議会が東北大学で開催され,当ICTから地崎真寿美・西井惠子,看護部の前川八重子の3名が出席。席上,「2001年全国国立大学附属病院CVカテーテルサーベイランス(全国42の大学附属病院で実施)」の結果が報告されました。それによると「患者数は2,031人で感染症患者数は88人,感染率は7.6%」でありました。今後,このCVカテーテルサーベイランスを継続して行う場合,サーベイランスの方法,内容等について協議会で再検討することになりました。


◆感染症発生動向調査から ◆◆
  1. 耐性菌情報:当院のMRSA感染患者数(2001年7〜12月)はそれぞれ15・6・11・13・20・14(人)で,10・3・9・9・14・8(人)が新規患者です(前月比で新規患者は7月・2人増,8月・7人減9月6人増10月は変わらず,11月は5人増,12月は6人減)。ペニシリン耐性肺炎球菌感染患者数(2001年7〜8月はありません,9月は1人,10月〜12月はありません)。薬剤耐性緑膿菌感染患者数(2001年7〜12月)はありません。

  2. HIV情報:厚生労働省エイズ動向委員会は2001年10月23日,2001年6月25日〜9月30日までの約3ヶ月間におけるエイズ患者数は法定報告に基づく新規患者報告数は85件,新規感染報告数は162件(前回144件),前々回が129件であり,3回続けて増加が認められたと報告。感染経路別に見ると,新規報告のAIDS患者では異性間性的接触によるものが37件,HIV感染者では同性間性的接触によるものが77件とそれぞれ第1位を占めています。 年齢別では前回同様患者・感染者ともに各年齢層に分布しているものの,患者では30代以上,感染者では20代〜30代が占める割合が高くなっています。性別で見ると,患者・感染者とも男性が8割以上を占めており,これは前回同様の傾向です。男性感染者の半数以上は同性間性的接触によるものです。男性エイズ患者では同性間性的接触より異性間性的接触による報告数が多く,女性では感染者・患者とも異性間性的接触によるものが大多数を占めています。国籍別では日本人患者65件,感染者141件,外国人患者20件,感染者21件でした。感染地域別では,国内で感染した患者51件,感染者128件,海外で感染した患者15件,感染者12件,感染地域不明患者19件,感染者22件でした(委員長コメントによる)。                                         三重県のエイズ患者・HIV感染症の
    @ 今回の報告受理(2001年6月25日〜9月30日)による患者数は,男性0件(0),女性1件(0),感染者数は,男性1件(0),女性0件(0)。感染原因別では,異性間性的接触2(0),同性間性的接触0(0),母子感染0(0),薬物濫用0(0),不明0(0)。
    A 累積(1989年2月17日〜2001年9月30日)による患者数は男性18(9),女性9(7),感染者数は男性21(4),女性37(32)。感染原因別では,異性間性的接触52(26),同性間性的接触2(0),母子感染1(1),薬物濫用1(1),不明29(24)でした(カッコ内の数は外国人を示します)。


◆ 感染症レクチャー(9)◆

カテーテル関連感染対策について(2)

前号で「血管内留置カテーテル関連感染予防のためのCDCガイドライン」や「米国輸液看護協会輸液基準マニュアル2000年改訂版」などの最新のガイドラインに基づく「中心静脈ライン管理」による感染対策の実際について述べましたが,引き続き「末梢静脈ライン管理の実際」,「ヘパリンロック・生食ロックの実際」についてご紹介します(輸液ライン管理と感染対策;BDテキストより一部引用改変)。

末梢静脈ライン管理の実際
1)手洗い
中心静脈ライン管理に準ずる。
2)カテーテル挿入部位の選択
成人の場合 ― 下肢よりも上肢がよい。
小児の場合 ― 手,頭もしくは足がよい。
3)カテーテルの交換
成人:留置期間72時間を限度として刺入部位を変えることが推奨されている。しかし,ヘパリンロックしているカテーテルの場合,輸液時間ならびに輸液量が少ないことにより静脈炎の発生率が減少するため,96時間毎とされている。
小児:定期的な穿刺部位の変更が有効であるかに関しては,一定の時間や考えまでは示されていない。
    静脈炎とは
  • 静脈炎は静脈壁内膜の炎症であり,軽度の症状で存在する進行性合併症である。
  • 早い段階でカテーテルを抜去しなければ,様々な段階を経て進行し重篤な合併症を引き起こすことがある。
  • 静脈炎の徴候および症状は,圧痛・紅班・発赤・腫脹・熱感・疼痛・赤い索条(線条)排膿などがあげられる。
4)カテーテル挿入部のケア・固定方法
    カテーテル刺入部の消毒方法は
  • 刺入部は,70%アルコール,10%ポピドンヨード,または2%ヨードチンキ,クロールヘキシジンなどの適切な消毒薬で皮膚を清潔にすること。
  • カテーテル部位の変更時(72時間毎)に,透明フィルムドレッシング材またはガーゼを交換する。
  • 固定に使用するテープ類はすべて滅菌したものを使用する。

    カテーテルの固定方法
  • 末梢静脈カテーテルの基本的固定方法
    固定方法図
5)輸液セットの交換頻度について
中心静脈ラインに準ずる。


ヘパリンロック・生食ロックの実際

1)間歇的輸液療法におけるヘパリンロック(生食ロック)の有用性
  • 末梢静脈に抗生物質などを間欠的に輸液する場合,毎回翼静針点滴セットの針を用いて穿刺する方法(抜き刺し)は,穿刺のたびに患者に苦痛を与える上,金属針の使用による皮下組織への静注液浸潤の危険性があり,重篤な合併症を起こす危険性がある。
  • また,医療従事者の労力ばかりでなく針刺し事故による血中ウイルス感染の危険性も増大し,近年大きな社会問題となっている。
  • ヘパリンロックによって間欠的に輸液することで,輸液量や輸液時間を減らすことができ,結果的に静脈炎の発生率が減少するため,ヘパリンロックしているカテーテルでは96時間まで留置が延長されている。

2)末梢静脈カテーテル留置における生食ロックの有用性
  • 最近幾つかの研究で生理食塩水は末梢静脈カテーテルを開存させ,静脈炎を減少させるのにヘパリンと同様の効果があるとしている。
  • また,カテーテルを開存させるためのヘパリンの常用は,1日当たり250〜500単位の低容量でも血小板減少症,血栓塞栓症,出血の合併症を惹起する。

《最後に》
 当院では,現在のところ「血管内留置カテーテル関連感染防止」に関する統一したマニュアルがありません。しかし,感染防止対策上その必要性が叫ばれている今日,マニュアルの作成は急務と考えられます。したがって本稿で2回にわたり述べたガイドラインの内容を踏まえて,当院の臨床の現場に即応したマニュアルを作成する必要性があります。それには担当医師をはじめ,医療スタッフの理解と協力が必要です。昨年国立大学病院感染対策協議会で試行的に行ったサーベイランスの結果から,基本的には「手洗いの徹底,マキシマルバリアプレコーション」など効果のエビデンスを再認識することが鍵となることは言うまでもありません。

◆ 感染対策Q&A◆◆


Q:安全な医療を提供する上での「無菌操作」とはどういう操作を指しますか,また「無菌的遮断」はどのように考えたらいいのでしょうか。


A:無菌操作とは「手術室,病室,処置室,外来などにおいて,手術創,その他の創,尿路,血管内など感受性を有する部位への汚染を防止する基本的な操作」をいいます。 例えば,院内感染には交差感染と内因性感染がありますが,交差感染は医療従事者,患者,さらには病原体に汚染された医療器具から感染する接触感染です。この感染経路を遮断し,微生物汚染を防ぐための操作を「無菌的遮断」(aseptic barrier)といいます。具体的には,帽子,マスク,ガウン,手袋,覆布,粘着ドレープなどにより清潔域あるいは無菌域を局所的に確保することが出来ます。しかし,これらは使用目的や用途により,遮断の厳密性および程度は異なります。 一方,臨床の現場では,経皮・経粘膜的挿入(血管内留置カテーテル,尿道留置カテーテル,各ドレーンなど),創傷処置(手術,術後創傷処置,熱傷,重度の褥創)など,すべて滅菌された器械・器具や資材(消毒された皮膚を含む)を用いて行う手術や処置での汚染を防止するための操作方法を現在では「無菌操作(aseptic technique,asepsis)または滅菌操作」といいます。しかし,皮膚消毒は,完全な方法ではないが,無菌操作の範疇に入ります。基本的には微生物の取り扱い時に検体外部からの汚染を防ぎ,外部への感染の危険を避けるための火焔滅菌など一連の操作が「無菌操作」の考え方です。無菌操作を行うためには練度の高い技術・意識の高揚の他,クリーンベンチなど環境の整備も必要になってきます。いずれにしても安全な医療を提供するため医療従事者は医療行為中無意識の中にも「無菌操作」が施行出来るように修練を積む必要があります。


◆INFORMATION ◆◆

  1. IPM-1型メタロ‐β‐ラクタマーゼを産生する肺炎桿菌:β‐ラクタマーゼの中でIPM-1型メタロβ-ラクタマーゼを産生するセラチアや緑膿菌が内外で関心事となっています。今回,IPM-1型メタロβ-ラクタマーゼを産生する肺炎桿菌が慢性骨髄性白血病の患者から分離報告されました。これまでに国内外で報告はあったが,国内の分離株で患者背景を含めて詳しく報告されたのは今回が初めてです。患者は59歳の男性で,上記の診断名で,発熱症状を呈した際に咽頭,鼻腔,喀痰などからMRSAとともに肺炎桿菌,エンテロバクターなどの各種のグラム陰性桿菌が分離され,バンコマイシン,アルベカシン,イミペネム,セフタジジムなど投与。その後,肛門周囲のビラン部から多剤耐性の肺炎桿菌のみが分離されるようになった。IPM-1を産生する肺炎桿菌はまだ稀ですが,その遺伝子は,伝達性の巨大プラスミドにより,メタロ-β-ラクタマーゼ遺伝子が近縁のグラム陰性桿菌に拡散することが懸念されており,今後,肺炎桿菌や大腸菌などにおいても増加に注意する必要があると報告しています(IASR;Infectious Agent Surveillance Report,日臨微誌 11:20〜25 2001)。

  2. 厚労省がエンテロバクター菌での院内感染事例報告を要請:厚生労働省医薬局安全対策課は平成13年9月4日,都道府県に対し,エンテロバクター菌による院内感染事例について報告するように求めました。日本医科大学附属病院で起きたエンテロバクター菌による院内感染を受けた対応です。同省によると,日本医大病院で平成13年8月21日から22日にかけて,7人が原因不明の発熱を起こし,24日,1人が敗血症性ショックで死亡。検査した結果,死亡例を含む3人からエンテロバクター菌を検出。平成13年9月3日には検出菌のDNAパターン,薬剤耐性パターンが同一だったことが判明し,院内感染と判断。 エンテロバクター菌は腸管内に常在するグラム陰性桿菌。免疫力が低下した患者で日和見感染がみられることがあるほか,カテーテル,人工呼吸器,静脈内高カロリー輸液からの感染もあります。第二,第三世代セフェム系,セファマイシン系抗生物質に対しては,接触することで耐性を獲得します。敗血症例での死亡率は2割から5割程度だといわれています(薬事日報:2001年9月7日)。


◆ OUTBREAK ◆◆
  1. 日本医大病院で院内感染 1人死亡,7人に症状:東京都文京区の日本医科大学附属病院で平成13年8月下旬,入院中のお年寄りら7人が相次いで発熱の症状を訴え,1人が死亡。このうち,死亡した人を含む3人の血液からエンテロバクター・クロアカという腸内細菌が見つかり,同病院は院内感染の疑いが濃いとして感染経路の特定を急いでいます(2001年9月4日:朝日新聞)。

  2. 患者7人死亡 東京・世田谷の病院で:東京都世田谷区の伊藤脳神経外科病院で平成14年1月9日〜16日の間に,20代の女性を含む患者計7人が死亡していたことが18日分かり,セラチア菌による院内感染の疑いがもたれています。亡くなった7人はいずれも中心静脈栄養(IVH)を受けており感染症と死亡原因の因果関係を調査中です(2002年1月18日:毎日新聞)。


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三重大学医学部附属病院感染対策チーム
三重県津市江戸橋2-174

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