三重大学大学院医学系研究科生化学分野 竹本研究室

研究内容



■記憶の獲得・貯蔵メカニズムの解明

1.記憶分子を光で操作する新技術の開発

CALI法は、標的分子を光で酸化・不活性化する分子操作技術のひとつであり、直径数μmの微小領域においても迅速な分子不活化が可能です。この高い時空間分解能を生かし、神経伝達物質受容体を脳領域~単一シナプスのマルチスケールで光操作できれば、記憶情報の詳細かつ因果的な解析が可能になると期待できます。我々はこれまでに、シナプス可塑性に重要なAMPA受容体の一つである、GluA1/1に対するCALI法の開発に成功しました(Takemoto K. et al. Nature Biotechnology 2017)。そこで本研究ではCALI法を応用し、記憶に関わる様々な神経伝達物質受容体に対するCALI法の開発を進めています。

2.光技術を駆使した記憶貯蔵メカニズムの解明

記憶は記憶痕跡という神経細胞集団に貯蔵されるが、「どの神経細胞が記憶痕跡になるか?」という選択原理は全く不明です。我々はこれまでに、独自に開発したAMP受容体に対するCALI法をin vivoに適用し、記憶痕跡選択の初期段階である記憶の獲得には、AMPA受容体の中でもGluA1/1のシナプス移行が必要なことを明らかにしました。一方で、AMPA受容体は海馬において3種の複合体(GluA1/1・GluA1/2・GluA2/3)が存在することがわかっており、各複合体特異的な生理機能の存在が示唆されます。そこで我々は、CALI法と二光子イメージングを駆使し、各AMPA受容体複合体の時空間動態を可視化・操作することで、記憶貯蔵メカニズムの解明を目指しています。さらにこうした独自の光技術と生化学的解析を組み合わせ、老化動物における記憶力低下メカニズムについても研究を進めています。

■新規光操作技術の開発

 他方、我々が開発したAMPA受容体CALI法は、光でシナプス可塑性を操作する強力な技術として、特に脳科学分野で注目されています(Humeau Y et al. Nat. Neurosci. 2019、Paoletti P et al. Nat. Rev. Neurosci. 2019等多数)。一方で本手法は、分子ごとにCALIが可能な抗体を取得する必要があるため、様々な分子に対して網羅的に適用することは困難です。そこで本研究では、進化分子工学的手法やタンパク質工学的手法、ゲノム編集技術を統合的に駆使し、様々な内在性分子をハイスループットかつゲノムワイドに光不活性化可能な新規光学技術の創生を目指しています。

■脳損傷からの機能回復に関する研究

脳が損傷を受けた後にリハビリをすると、残存する脳領域において機能的地図が再編成され、失われた脳機能が回復します。このような脳損傷後の機能回復には、脳の可塑的変化が重要な役割を担っていると考えられますが、その実態は明らかになっていません。本研究では、二光子顕微鏡によるin vivoイメージングやシングルセル解析技術、CALI法、電気生理学的解析を統合的に駆使し、その分子メカニズムの解明に挑みます。また、シナプス可塑性を光で局所誘導する新しいCALI法を開発し、失われた脳機能をライフステージを問わず超迅速に回復する新技術の開発を進めます。