臨床・研究活動

臨床・研究グループ紹介三重大学大学院 脳神経外科学の研究グループをご紹介いたします。

神経内視鏡

内視鏡はすでに多くの医療分野で低侵襲的な検査・治療器具として利用されています。 脳神経外科領域でも、脳や神経という重要でかつ繊細な組織に対し侵襲を最小にするために、多くの場面で内視鏡を活用しています。以下にその代表的な疾患・治療を紹介します。
下垂体部疾患(下垂体腺腫、ラトケ嚢胞、頭蓋咽頭腫、脊索腫など)
脳の深部に存在する下垂体近傍に発生する疾患です。この部には、開頭手術では病変に到達するだけで途中の脳や神経、血管に多大な侵襲がかかります。そこで経鼻的(経口唇的)に蝶形骨洞という副鼻腔を経由した手術が1960年代から行われてきましたが、術野がとても狭いため、この手術は非常に困難でした。ところが、狭い術野を拡大して観察できる内視鏡の導入により、この手技はより安全で効果的なものに変わりました。その結果、前頭蓋底部や斜台部など、これまで開頭手術が行われてきた病変に対しても内視鏡手術が導入されるようになりました。
なお当院では、鼻内処置を鼻内視鏡手術専門の耳鼻咽喉科医が担当するなど、脳神経外科と耳鼻咽喉・頭頚部外科が協力する共同手術を行っており、それぞれの高い専門性を組み合わせることで、より高度な医療を提供しています。

下垂体腺腫例(左:術前、右:術後)

斜台部に存在する脊索腫例(左:術前、右:術後)

手術風景:脳神経外科と耳鼻咽喉科との共同手術です。
脳室系疾患(水頭症、脳室周囲腫瘍など)
脳には髄液という循環液が巡っていますが、何らかの原因により髄液の循環が障害されると、水頭症という脳の機能障害が生じることがあります。これは出生前の胎児から高齢の方まで発生することがあり、原因としては先天性疾患や脳腫瘍、髄膜炎、くも膜下出血などが代表的です。症状としては頭痛や吐き気、認知症や歩行障害、排尿障害、そして重症化すると意識障害もきたし致死的となることもあります。その水頭症に対して最も一般的に行われている外科的治療はシャント手術です。この手術は過剰に貯まった髄液を身体の別の場所にチューブでバイパスを作って排出するものです。比較的簡便で有用な治療法ですが、チューブを体内に留置するため感染、流れすぎることによる脳への悪影響が出ることがある、シャント機能不全(チューブがつまる)、成長に伴いチューブ延長の手術が必要となる、などの問題があります。しかし近年神経内視鏡を用いることによって、チューブを使用せずに水頭症を治療する方法が急速に普及してきました。代表的なものは「第三脳室底開窓術」で内視鏡を用いて脳室(髄液の貯まるところ)の底に穴を開けて、頭の中でバイパスを作るという手術です。この手術の長所として①チューブを留置しないので感染症の心配が少ない、②頭の中でバイパスを作るので髄液の流れが自然に近い、③水頭症の原因が脳腫瘍などによる場合にはその診断や治療も同時に行うことができる、④開けた穴が塞がらない限り再手術は必要ない、などがあります。一方短所としては、①開けた穴が塞がることがある、②水頭症の原因によっては有効でないことがある、③2歳以下の症例では有効性が確立していない、などが挙げられます。

水頭症治療例
左 :(術前)脳室(脳の内側の髄液の溜まるところ)が拡大しています
中央:(術前)腫瘍により循環が障害されています(黄矢印大) 
右 :(術後)脳室が縮小し、圧迫されていた脳溝(脳のしわ)が確認できます(黄矢印小)

第三脳室底開窓術の術中写真
左:穴を開ける前の第三脳室底部です。
中:風船で慎重に穴を開けています。
右:開けた穴を髄液が流れているのが内視鏡でリアルタイムで確認できます。

MRI画像 
左:(術前)矢印の部分が穴を開ける第三脳室底部です。
右:(術後)開けた穴からの髄液流が描出されています(灰色のモヤっとした部分)
脳出血(被殻出血、視床出血、小脳出血など)
脳出血は、中高年に多く発生する脳卒中の代表的疾患で、原因としては高血圧が最多です。症状は出血の部位によりますが、手足の麻痺、意識障害、めまい、呼吸障害などをきたし、重度の後遺症を遺すばかりか死に至ることも少なくありません。脳出血の手術の方法は、従来から行われている「開頭血腫除去術」、「CT定位的血腫吸引術」に加え、両方の利点を兼ね備えた「神経内視鏡下血腫除去術」が近年普及しています。つまり頭蓋骨に小さな穴をあけることで行うことができ(頭蓋骨を大きく開くことは不要です)、局所麻酔でも施行可能です。止血も内視鏡をみながら行うことができます。手術時間も1時間程度と早く、身体にかかる負担が最小限で済みます。欠点は止血の確実性が顕微鏡手術に比べ若干劣るため、抗血小板剤などを内服していて血液が止まりにくい方には行えないことがあります。

手術で使用する内視鏡と、吸引管です。
神経内視鏡下血腫除去術の術中写真
左:血腫を吸引しているところ
右:電気凝固にて止血を行っているところ

CT画像
左:(術前)血腫(白い塊)が脳を圧迫しているのが分かります。
右:(術後)血腫は無くなり、脳の圧迫が解除されています。
血管内領域(頸動脈狭窄症など)
血管内治療は、様々な血管病変に対して血管内部からカテーテルなどを用いて治療を行います(参照 脳血管内治療について)。皮膚を切らずに行う為、侵襲が少ないのが利点ですが、一方で病変を直接見れないため放射線などで確認しつつ治療を行います。そんな中、血管内視鏡により血管を内部から観察することで、放射線だけではわからない情報を得ることができます。

頸動脈狭窄症例(ステント留置術により血管が拡張しています)

左:血管内視鏡(細さはクリップとほとんど変わりません)
右:内視鏡写真(ステントが血管に密着しています)
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