1. 分子の特性
唾液腺スポロゾイトにおいてmRNAの転写が顕著に増大する。分泌シグナルを有するが、それ以外にはドメイン構造を持たない。約25kDaの蛋白をコードする。相同体が熱帯熱マラリア原虫にも存在する。
蛋白発現を調べたところ、唾液腺スポロゾイト選択的に発現しており、中でもマイクロネームに局在する事がわかった。このことは、SPECTが、肝臓への感染に関わる事を示唆している。
2. ノックアウト原虫のラットへの感染性
SPECT蛋白の、感染における役割を解析する目的で、遺伝子欠損原虫を作出した。SPECT-KO
sporozoiteを蚊の唾液腺から抽出し、ラットに静注して感染させた。その後、経時的に血球感染率を見ることで、KO原虫のラットへの感染性を評価した。
結果として、SPECT蛋白の欠損により、野生型より約1/20程度感染性が減少することが分かった。つまり、SPECTは、ほ乳類の感染成立に重要な役割を果たすことが初めて明らかにされた。
このように、肝臓への感染に特異的に関わる分子としては、SPECTが初めてのものである。 |
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3. Sporozoiteの細胞「感染」能と「通過」能
Sporozoiteは肝実質細胞に感染し、exoerythrocytic
stage (EEF)へと発育する。その際、寄生胞(vacuole)を形成することが知られている。ところで、近年、sporozoiteが細胞の膜を破って、ただその細胞を通過していく、という侵入様式も取りうることが報告された。この二つの侵入様式は、in
vitroの実験系で調べることが可能である(寄生:形成されたEEFの検出、通過:障害された細胞の検出)。
SPECT-KO sporozoiteは、細胞への寄生は正常であったが、通過能を全く有していなかった。このことは、SPECTは細胞の通過のステップに必須な蛋白であることを示す。さらに、「寄生」と「通過」は独立した分子基盤を持つことが初めて示された。 |
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4. 細胞通過能は、sporozoiteが類洞壁を通り抜けて肝実質細胞に到達するのに必要か?
次に、sporozoitoの細胞通過能が、in
vivoでの感染にどのような役割を果たすのか解明した。図に肝臓の構造を模式的に示すが、このように血液中のsporozoiteが肝実質細胞に寄生するためには類洞壁を越えなければならない。類洞壁は、血管内皮細胞とクッパー細胞(免疫系の細胞)で構成されている。Sporozoiteの「細胞通過能」がこの類洞壁を越える際に必要とされると仮定し、クッパー細胞を人為的に除去したラットでのSPECT-KO原虫の感染性を解析した。その結果、KO原虫は、野生型と同レベルにまで感染性が回復したことから、SPECT蛋白は、クッパー細胞を「通り抜ける」際に必要であると考えられた。 |
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5. 参考文献
Ishino T, Yano K, Chinzei Y, Yuda M. Cell-passage
activity is required for the malarial parasite to cross the liver
sinusoidal cell layer. PLoS Biol. 2004 Jan;2(1) |
Editorユs choice: MICROBIOLOGY, Sinusoidal
Sporozoite SPECTacle. Science, 303, Feb. 20, 2004 |
朝日新聞 2004年3月
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