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狭心症・心筋梗塞について

心臓は、脳・内臓・手足など全身に血液を送り出すいわゆるポンプの働きをする臓器です。心臓全体が筋肉でできており、私たちが生まれてからひと時たりとも休むことなく、寝ている時も起きている時も絶えず収縮と拡張をくり返して血液を送り出しています。そのため、心臓自身も酸素と栄養分を十分に供給してもらわなくてはいけません。この心臓自身に血液(酸素と栄養分)を供給する血管のことを冠動脈といいます。人間の心臓には通常3本の冠動脈が心臓表面を取り囲むように走っています。

狭心症

狭心症とは、冠動脈が何らかの原因(多くは動脈硬化)により狭くなり、十分な量の酸素と栄養が心臓の筋肉に運べなくなることによって起こる病気です。そもそも動脈硬化とは、年齢とともに動脈が徐々に硬くなり弾性を失ってしまう状態のことで、血管の中を見てみるとコレステロ-ルなどを主成分とした粥腫(プラーク)というものが血管壁に付着し徐々に増大していき、それとともに血管の内腔はせまくなっていきます。この動脈硬化を促進させる因子としては、肥満・高血圧・糖尿病・高脂血症などの生活習慣病・喫煙・遺伝などがあげられます。
また狭心症には、冠動脈のけいれん(攣縮:スパスム)によって起こるものもあります。これは夜間や早朝などの安静時や、朝の労作時、女性などに多い傾向があります。

狭心症の症状としては、胸の真ん中あたりの締め付けるような痛みや苦しみなどが一般に多いです。しかし症状の感じ方には個人差が大きく、胃痛、歯や顎の痛み、左肩痛や左手の痺れ、背中の痛みなどが主症状の場合もあります。初めのうちは朝の出勤途中や階段・坂道を登ったときなどの労作時を中心に症状が起こり、少し休憩するとすぐに治まっていきます。しかし血管の狭窄が更に進んでくると、軽労作や安静時にも症状が出現するようになったり、痛みの程度が強く冷や汗を伴うようになってきたり、症状の持続時間が長くなってきたりし、こういった状態を不安定狭心症と呼びます。最近になって急に出現してきた狭心症もこれに含まれます。不安定狭心症とは読んで字のごとく、いつ冠動脈が完全に閉塞して心筋梗塞に移行してしまうかわからない非常に不安定で危ない狭心症という意味です。このような状態の場合は直ちに医療機関に受診して精密検査や治療をうける必要があります。

急性心筋梗塞


急性心筋梗塞とは、冠動脈が突然閉塞して血流が完全に途絶えてしまうことによって起こる非常に怖い病気です。これは動脈硬化の部位で述べた冠動脈内の粥腫(プラーク)の表面にある皮膜が破れ、粥腫自体が血管内に露出するため、その部位で一気に血液が固まって血栓を形成し血管を閉塞させてしまうという病態です。先ほどの狭心症で見られた高度の狭窄病変が詰まる事もあれば、軽度~中等度の狭窄病変(狭心症の出現しない病変)で突然閉塞する事もあります。血流が途絶えると、その支配領域の筋肉が時間経過とともに壊死してしまい(壊死とは不可逆的なダメージ受けて死んでしまうこと)、一度壊死してしまった筋肉は元には戻りません。適切な治療のためには、閉塞した血管の一刻も早い血流の再開通(再還流療法)がのぞまれます。


症状としては、今まで感じたことも無いような突然の激烈な胸の痛み、心臓の焼けるような痛みを自覚する事が多く、通常30分以上持続し、ニトログリセリンの効果も乏しいことが多いです。痛みによる自律神経反射のため吐き気や嘔吐、冷汗などを伴うこともあります。また心筋梗塞発症時には非常に危ない不整脈を合併したり著しく心臓の収縮力が低下する事も多く、失神やショック状態に至る事もしばしばあります。なお、発症時に全く症状のない無痛性心筋梗塞の患者さんも10-20%に存在するといわれており、そういった方は発症初期に見つけることが困難で、かなり時間がたってから心不全などを併発して初めて病院を受診されることもあります。無痛性心筋梗塞は高齢や糖尿病の患者さんに多いとされます。

診断

安定狭心症の診断は、通常、心電図、心臓超音波検査、心臓核医学検査、運動負荷心電図、冠動脈造影CT検査や造影心臓MRI検査などの侵襲の少ない検査から行っていきます。これらの検査から狭心症を疑う場合には、最終的に冠動脈造影検査(心臓カテーテル検査)を行って確定診断をつけます。冠動脈造影検査では冠動脈の中の狭窄をおこしている部位や狭窄の程度がはっきりと確認・評価できます。これは今後の治療の選択を行ううえで、重要な検査となります。
不安定狭心症や急性心筋梗塞などの場合には、できる限り速やかに治療を行う必要があるため、心電図・心臓超音波などの最低限の検査のみ行い、疑いが強ければ直ちにカテーテル検査に移ります。

治療

狭心症の場合は、冠動脈の狭窄によって生じる心筋への血流不足を改善(血流の改善・増加)させ、症状をなくすことを目的とします。急性心筋梗塞の場合には、冠動脈の閉塞にともない時間経過とともに進行する心筋の壊死をできる限り救済するために、閉塞した部分より抹消に対して血流を再開させることを目的とした再還流療法を行います。

治療法には大きく、

  • カテーテル治療
  • 冠動脈バイパス手術
  • 薬物療法

の3つに分類されます。特に近年では、より低侵襲でスピーディーに行えるカテーテル治療が一般的に広く行われるようになってきております。

カテーテル治療

手首や肘、又は太ももの付け根に局所麻酔を行い、そして太さ2mm程のカテーテルという細い管を挿入し、冠動脈の入口まですすめます。その中をガイドワイヤーという細いワイヤーを冠動脈の中に進め、狭窄部位や閉塞部位をバルーンで拡張したり、血栓を吸引したり、ステントを留置して内腔を補強する治療法です。

冠動脈バイパス手術

胸を開いて行う(開胸)外科手術のことです。胸や脚・腕・腹部から健康な血管の一部を採取します。そしてその採取してきた血管(グラフト)を、血流が不足している冠動脈に繋いで、新たに血流を供給するバイパスを作成する手術のことです。侵襲は大きいですが、複数の血管に病変がありステント治療では追いつかない場合などでも、心臓全体に確実に血流を供給させてあげることができます(完全血行再建)。

文責:三重大学医学部附属病院 CCUネットワーク支援センター 助教 増田 純