研究内容

線毛機能不全症候群の診断

線毛機能不全症候群は主に常染色体潜性遺伝をする遺伝性疾患で、頻度は約2万人に1人とされています。本症では先天的に線毛運動が障害され、慢性副鼻腔炎、滲出性中耳炎、気管支拡張症、不妊などを呈し、本邦では約4分の1に内臓逆位を伴います。本症の診断には鼻腔一酸化窒素によるスクリーニングと電子顕微鏡による線毛の構造異常、あるいは線毛運動にかかわる遺伝子のバリアントの証明が必要とされています。私たちは三重病院の小児科と当院の中央検査部と電顕室と協力し、本症の診断に努めています。全エクソーム解析による原因遺伝子の特定も行っています。

線毛の電子顕微鏡所見線毛の電子顕微鏡所見

遺伝学的検査結果の一例遺伝学的検査結果の一例

嗅覚障害の治療法の開発研究

においがわからない状態を嗅覚障害と言います。原因で最も多いのは鼻副鼻腔炎、次いで感冒、頭部外傷です。嗅覚が低下・脱失すると、香りや食事のおいしさを楽しむことができなくなったり、火事の煙や腐敗臭に気付かなくなったりするなど生活の質(QOL)が低下して、時には生命の危険にさらされることもあります。私たちは鼻副鼻腔炎による嗅覚障害に対して鼻内内視鏡手術で嗅覚障害の改善率を向上させる手術手技の開発に取り組み、今のところ80%にまで達しています。一方、頭部外傷による嗅覚障害の改善率は10〜40%と全国的に低いので、この向上のために、嗅神経再生をテーマにした基礎研究に取り組んでいます。その結果、傷害部位の炎症反応を抑制すれば嗅神経の再生と嗅覚の回復を向上させることができるのを明らかにしましたので、現在これを実地の診療に応用できる治療薬の開発を目指しています。

鼻汁中の好酸球嗅神経を切断されたマウスの頭部標本。抗IL-6受容体抗体を投与すると局所炎症が抑制され、切断された嗅神経(左側)が再生してまた繋がっている(赤矢印)。

上気道の粘液産生の機序の解明

気道上皮細胞の炎症のシグナル伝達経路気道上皮細胞の炎症の
シグナル伝達経路

難治性疾患に指定されている好酸球性副鼻腔炎や今や国民病といわれているアレルギー性鼻炎などの好酸球性炎症において、粘液過分泌は著しく患者様のQOL(quality of life)を損ないます。少しでも苦痛を軽減すべく、当科では上気道における粘液産生過分泌の機序の解明に取り組んでいます。具体的には好酸球性炎症における各種サイトカインによるムチン遺伝子発現や杯細胞仮生についての研究を行っています。 (三重大学免疫学講座との共同研究で行っております)

鼻アレルギーに関する研究

鼻汁中の好酸球鼻汁中の好酸球

スギ花粉症の有病率は近年上昇しており、国民の約3割が発症していると報告されています。スギ花粉症の感作と発症には遺伝因子と環境因子が関与するといわれていますが、十分に解明されていません。家族歴や生活習慣などに関するアンケートを行い、スギ花粉症の感作および発症に関与する因子を明らかにする研究を行っています。

鼻アレルギーでは、血清中だけではなく鼻汁中にも抗原特異的IgEが認められ、スギ花粉症において鼻汁中の特異的IgEの定量を行いました。海外からは、血清中特異的IgEが陰性で、鼻粘膜のみにアレルギー反応がみられるlocal allergic rhinitisが報告されていますが、本邦からの報告はありません。鼻汁中特異的IgE定量を用いて、スギ花粉に対するlocal allergic rhinitisが存在するのかを調査研究してます。

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三重大学医学部附属病院

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