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三重大学医学部整形外科における骨軟部悪性腫瘍に対する先進医療

はじめに

 近年、画像診断技術の向上、術前・術後補助化学療法の進歩、外科的手技の改良、放射線治療の進歩、重粒子線治療をはじめとする新しい治療体系の出現などを背景に、悪性骨軟部腫瘍の治療成績は、急速に向上しつつある。なかでも骨軟部腫瘍を専門とする整形外科医は、多くの症例を緻密に解析することにより外科的切除縁の概念を確立し、骨軟部腫瘍の治療成績向上に外科的治療体系の側面から大きく寄与してきた。しかしながら、局所再発率を減少させるために大きな切除縁を設定することは、患肢機能の悪化を意味することとなり、患者のQOLの観点から整形外科医にとって大きなジレンマとなっていた。
 このような背景のもと、患者のQOL障害を最小限にするために切除縁の縮小をめざした低侵襲治療法が徐々に開発されつつある。ここでは我々が開発し治療効果を上げている低侵襲治療法を概説する。

1. アクリジンオレンジ治療法

アクリジンオレンジは100年以上前にコールタールより抽出された色素であるが、DNAやRNAと結合すること、酸性の細胞内小器官に取り込まれること、また光感受性物質として光に対して励起しエネルギーを放出することなどが以前より知られていた。我々は、1)アクリジンオレンジは悪性腫瘍細胞に効率的に取り込まれること、2)取り込まれたアクリジンオレンジは青色光で励起して発光すること 3)アクリジンオレンジは低容量の放射線照射でも励起すること 4)励起した後に腫瘍細胞はアポトーシスに陥ること を見いだした。細胞死のメカニズムは不明な点が多いが、励起したアクリジンオレンジにより活性酸素が産生されることがもっとも大きな要因と考えられている(図1)。

図1

我々が現在行っているアクリジンオレンジ療法は、光線力学的手術(Photodynamic Surgery: PDS)、光線力学的療法(Photodynamic Therapy:PDT)および放射線力学的療法(Radiodynamic Therapy: RDT)から構成されている。手術手順の概略を図2に示す。

図2

アクリジンオレンジ療法の最も良い適応になるのは、前腕部、手部、下腿部、大腿後面などの血管神経に腫瘍が近接する事が多い部位に発生した軟部肉腫である(図3)。

図3

現在まで41例の悪性骨軟部腫瘍に臨床応用してきたが、患肢機能の障害は最小限に抑えつつ局所再発率は低く抑えられており期待通りの治療効果を上げている。今のところ合併症は認めていない。

2. 転移性骨腫瘍に対する磁性体温熱療法

悪性腫瘍に対する温熱療法は1950年代より盛んに研究され、現在では、再発性の直腸癌、前立腺癌、子宮癌、頭頚部癌、肺癌、乳癌などで臨床応用されるに至っている。しかし、これら癌腫に対する加温方法はマイクロ波,超音波、温水を使用したものであり、体の深部に存在し、熱伝導能の悪い骨を加温するのには新しい治療戦略が必要であった。そこで我々は磁性体を病巣部に挿入後、体外交流時場発生装置を用いて加温する磁性体温熱療法を考案し、動物実験を重ねた後2003年3月より倫理委員会の承認を得て臨床応用を開始した。現在行っている磁性体温熱療法の手術手順の概略を図4に示す。

図4

骨幹部の病変に対しては原則として髄内釘を挿入する。術後交流磁場に暴露することにより髄内釘が発熱源となり腫瘍が加温される。また骨幹端部の病変に対しては、病巣を掻爬の後、粉末状のFe3O4とリン酸カルシウム骨ペーストを混和したものを骨欠損部に充填する(図5)。

図5

加温はやはり我々が開発した交流磁場発生装置のコイル内に患肢を挿入することにより行う(図6)。

図6

現在、再発性骨巨細胞腫やGrade1 軟骨肉腫にも磁性体温熱療法の適応を広げているが、良好な患肢機能と局所制御を得ることに成功している。臨床上問題となる合併症はない。

3. ラジオ波焼灼術

担癌患者を経過観察していると、外科的切除や放射線治療の適応にはなりにくい小さな転移病変が見つかることがある。そのような症例に対し近年Thermal ablationの有効性が実証されつつある。熱エネルギー源としてはマイクロ波、ラジオ波、レーザーなどが存在するがここでは我が放射線科と協力して行っているラジオ波焼灼術を概説する。ラジオ波焼灼術は一度に広範囲の焼灼が出来るため治療回数が少なくてすみ、治療効果も高いことが特徴であり、肝癌に対する治療方法として大きく発達してきた。現在では肺癌、腎癌、に対しても盛んに実施されておりその有効性に関するデーターが蓄積しつつある。我々は、IVR科と共同で転移性骨腫瘍(図7)および転移性肺腫瘍(図8)に対してラジオ波焼灼術を行っている。手技は基本的に局所麻酔下にて行う。CTガイド下に骨生検針を刺入しその先端を腫瘍の中央部にまで進め、次にこれを外筒として針電極を挿入し、骨生検針抜去後ラジオ波にて焼灼する(図7)。有痛性の転移性脊椎腫瘍はラジオ波焼灼術の非常によい適応である。また、骨軟部腫瘍の肺転移巣に対するラジオ波焼灼術は、手術療法と変わらぬ治療成績が得られることが明らかとなってきている。類骨骨腫もラジオ波焼灼術の良い適応である。

図7

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