胎児発育不全に対するタダラフィル臨床研究(患者様へ)

赤ちゃんが小さい(胎児発育不全)とは

胎児発育不全とは、平均と⽐べて、成⻑が遅くなっていることをいい、胎盤由来の妊娠合併症の代表的なものです。妊娠8週ごろから18週ごろまでの胎盤を作る過程で、血管の障害が起こると、⾚ちゃんへの酸素と栄養素へうまく運ばれなくなり、⾚ちゃんが十分に発育できなくなると考えられています。

赤ちゃんが小さいことによる影響

このような胎児発育不全は、全妊娠の約7%を占めており、現在の進歩した周産期医療でも、周産期死亡率、周産期合併症の罹病率が⾼く、その治療法の開発は極めて重要な課題の⼀つとなっています。

赤ちゃんが小さい原因

⾚ちゃんが⼩さくなる原因は、たくさんあります。胎盤がうまく形成されないこと以外に、⾚ちゃん⾃⾝の先天的な要因(染⾊体異常、遺伝⼦異常、奇形症候群)やお⺟さんからの感染症(サイトメガロウイルス、トキソプラズマ、⾵疹など)、お⺟さんの病気(⾼⾎圧症、甲状腺機能異常、⾃⼰免疫疾患、⾎栓性素因)、などが挙げられますが、原因がわからないこともあります。

赤ちゃんの大きさ(体重)の測り方と胎児発育不全の診断

⾚ちゃんの超⾳波検査で、⾚ちゃんのあたま、お腹まわり、⼤腿の⻑さから胎児推定体重を算出します。
胎児推定体重が-1.5SD未満(同じ週数の⾚ちゃんを体重の⼩さい順に並べたとき、100⼈中でおよそ7番⽬以下)の場合、胎児発育不全と診断されます。

小さい赤ちゃんに対する治療

胎盤の⾎流障害が原因であると考えられる場合に効果があるとされる治療法は現在のところありません。そのような場合に、我が国で⼀般的に⾏われている管理⽅法は、⾚ちゃんが⼦宮内で死亡しないように、超⾳波検査や胎児⼼拍数モニタリングで監視して、できるだけ妊娠を継続し⾚ちゃんを成⻑させる、という管理で胎児の発育を促す治療ではありません。

ホスホジエステラーゼ5阻害薬

⼩さい⾚ちゃんに対してお腹の中で発育を促す治療法として、われわれ三重⼤学産婦⼈科教室が中⼼となって、ホスホジエステラーゼ5阻害薬:タダラフィルを⽤いた新しい治療法を開発しています。

タダラフィルは肺⾼⾎圧症、前⽴腺肥⼤症、勃起不全に適応のお薬です。このお薬は⾎管の筋⾁をゆるめることによって、⾎流を増加させると考えられています。

タダラフィルは「バイアグラ」の商品名で有名なシルデナフィルと同様の薬効を持っていますが、シルナデフィルより作⽤持続時間が⻑い薬剤です。動物実験では、胎児発育不全のマウスモデルで、シルデナフィルの投与により有意に胎児体重が増えたと報告されています。

ヒトに対しては、2011年に、早期発症の重症胎児発育不全10例にシルデナフィル治療を⾏い、シルデナフィルを投与しなかった17例と⽐較した研究が発表され、シルデナフィルを投与すると胎児の腹囲の伸びが有意に⼤きくなったという結果が報告されました。

タダラフィルはシルデナフィルの半減期(薬の⾎液中の濃度が半分位なる時間)が4時間にくらべて、17時間と4倍以上も⻑く、⾷事の影響はうけず、副作⽤も少ないといわれています。以上よりタダラフィルの⽅がシルデナフィルより効果が得られやすいのではないかと、われわれは考えています。

臨床試験

第Ⅰ相試験

三重⼤学医学部産婦⼈科では、胎児発育不全症例に対するタダラフィル投与の安全性を確認する第⼀相試験を⾏いました(2015年11⽉三重⼤学医学部倫理委員会承認。承認番号2964)。その結果、有害事象に関しては、⺟体において、主に頭痛・潮紅がみられましたが、いずれも軽症でした。新⽣児においても、⽤量依存性の合併症は認められず安全性が確認されたと考えています。この試験の中で胎児推定体重増加量を検討したところ、タダラフィル内服前に1⽇8.5±5.0gであった胎児推定体重増加量が、タダラフィル内服後には1⽇19.5±4.0gと有意に増加しました。

後ろ向き症例対照研究

タダラフィル投与した胎児発育不全の11例を、妊娠週数、胎児推定体重などに差がないようにマッチした従来型の治療法を⾏った胎児発育不全14例と⽐較検討しました。その結果、胎児推定体重の増加量において、タダラフィル投与群が1⽇18g、従来型群が1⽇11gと有意に増加していました。

現在実施中の試験については準備中です・・・